君と笑い合えるとき
「大事で,好きだから。だからあんな風に,突然他の男に連れ去られるなんて,許せるわけ無いんだよ」



あ,花火。

そう,静流くんは私から目をそらす。

突然で,私にはあがっていく音も聞こえなかったのに。

静流くんだけが軽く口にして,さっきまでは星だけだった空を満足そうに見上げるから。

ずるい。

そう形を作った唇が,私の手も突き動かして。

こっちを見てと静流くんを引っ張る。



『わたしのほうが───すきだよ』



なんて,子供っぽい。

でも,みじめじゃない。

音に隠れてしまえって,ずるいくらい小さな声で,でも口だけはっきりと動かしたの。

じわりと静流くんの目が開くのを見てしまって,気恥ずかしさに顔をそらす。

静流くんは,ツンツンと私の肩をつついた。

なに? とすんなり上をむいてしまう私。

どこか楽しげで,色気すら感じるいたずらっぽい表情は,今も昔も変わらない静流くんのもの。
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