君と笑い合えるとき
「……きこ?」

「ねぇ見て! 可愛い浴衣! 前の子って,妹なのかな~」



静流くんが私を呼んだのは聞こえたのに。

それよりもずっと強い引力によって私の心は拐われた。

ズッ……ンと,言わすもがな。

重く鈴のような声が突き刺さる。

年の差だって,たった1つなのに……

悪意の無さが,余計に鋭く牙を剥いた。



「え? でも似てないよ」

「そーかなぁ,でもよく見たら似てない? だって────もん」

「まぁ,確かに? でも──じゃな─?」

「あ!!! そっっかぁ,そうだよね」



コロコロと遠くの言葉は,より遠く聞こえて。

もっと早く,静流くんに近づきたいと思う。



「きこ? さっきからどこ見て……」



すんっと,鼻を縮めた。

静流くんの言葉が,不自然に止まる。

この痛みは,絶対に,あの人達からのものではなくて。

現実と,そこからくる劣等感が,私にそうさせるだけ。

だから,こんなところで泣いちゃ駄目なのに。

さらりと繋いだ手はほどかれて,私の身体は自由に回せる。

90度以上に,ぐるりと,大きく。



「何でもないよ。すぐそこにいた人のりんご飴が,美味しそうだなって,そう思ってみてただけ」



架空のりんご飴,それが似合いそうな,可愛い2人が。

羨ましいなって,見てただけ。



「っきこ……っ」



背中を滑る1つの腕。

私に触れる前に,間を駆け抜けるようにして,1本声がよく通る。



「間宮さん…!」



顔をあげた先の人物に,私はぱちりと瞬いた。
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