君と笑い合えるとき
なのに,微笑んだその表情には,どうしても照れまで乗っていた。




「……きこ」



震える,低い声。

今まで聞いた声のどれとも違う。

くっと,疑問に目を向け───ようとした時。

私はしゃいだ可愛い女の人の視線に気を取られた。

私服を明るく着こなす,ピンクのネイルが愛らしいふたりぐみ。

揺れる夏らしいポニーテールは,敢えてお揃いにしているらしかった。

なぜ,私がそんなものを気にしたかと言うと。

単純に,その人達が静流くんを見ていたからだ。

熱気立ったようすの2人,はしゃぎをようを表現するように,手を取り合う2人。

頬を染めて,楽しそうに静流くんを見ていた。

今に始まったことじゃないと分かっていても,胸がざわつく。

だってその人達は,本当に可愛くて,年もきっと静流くんと同じくらいで。

スラッとした高身長で。

地毛に見えるその髪の毛は,明るすぎないけど,オシャレな髪色をしていて。

まるで,私が憧れた自分そのものだったから。

静流くんに似合うのは,ああいう子だって,明確なイメージそのものだったから。

来年になっても,きっと私はああはなれないと。

平均的な身長に,手の指は長くとも,結局は小さい手のひら。

控えめに結んだだけの真っ黒なボブに,ぺたんとした胸。

その小さな胸が,チクチクと痛む。
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