千燈花〜ETERNAL LOVE〜

若き乗馬の師

数日が過ぎたある日、朝早くから誰かを呼ぶ大きな声が東門の方から聞こえてきた。

 「燈花(とうか)はいるか~」

 ちょうど東門の近くで薪割を手伝っていたので、呼び声にはすぐに気がついた。

 「山代王様かしら?」

 急いで向かうと、門はすでに開いていて漢人(あやひと)と山代王が何やら楽しそうに笑い合っているのが見えた。突然の訪問に驚いたが、何故か胸が弾んだ。

 「山代王様、朝早くにどうされたのですか?」

 「それが…連日そなたの髪飾りを探しているのだが一向に見つからない、詫びに柿を届けに来たのだ」

 見ると山代王の足元に籠一杯に積まれた柿が置いてある。

 「えっ⁉︎まだ探して下さっていたのですか?しかもこんなに沢山の柿を、、」

 「すまぬな」

 山代王はまた申し訳なさそうに言い頭をかいた。

 「とんでもないことでございます、山代王様にご迷惑をかけてまで探す価値ある代物ではございません。どうかもうお忘れください」

 慌てて答えたが、内心すごく感動していた。もうとっくにあきらめていたのに、まさか彼がまだ探しているとは夢にも思っていなかった。

 「なれど…」

 山代王はまだ残念そうな表情でこちらを見ている。彼の誠実な人柄が伝わる。私のせいで悲しませてはいけないと思いとっさに話題を変えた。

 「それよりも、実に美味しそうな柿ですね、山で拾われたのですか?今剥いてまいりますので、一緒に食べましょう」

 山代王は安心したのか肩をなでおろし、

 「そうしよう」

 と、力なく笑った。


 東屋の石に座り飛鳥の都を眺めながら柿を食べた。

 「ん~美味しい!」

 思わず目が丸くなった。古代の柿は見た目こそ小さいが、素朴でほどよい自然な甘味があり想像以上に美味しかった。

 「良かった、そんなに喜んでくれるのなら、またそなたに取ってこよう」

 山代王が嬉しそうに笑って言った。やはり笑うとあどけない少年のようだ。

 「そうだ、明後日駿馬が届くのだ、乗馬を教えるゆえ、昼に法興寺そばの槻木(つきのき)の広場で待ち合わせしよう、よいか?」

 「はい、もちろんでございます。楽しみにしております」

 内心初めての乗馬に不安だったが、山代王と過ごせると思うとなぜか嬉しく感じた。
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