天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 無線を切った途端、いろいろな思いと共に涙が溢れて止まらなくなる。子供みたいに泣く私の隣で、ゴンさんが呆れたようでいてどこか嬉しそうな笑みをこぼす。

「キザなことするなぁ、あいつ。つーか、俺にもなんか言えよ」

 冗談半分、本気半分といった調子でぼやくので、泣きながら笑ってしまった。

 差し出された箱ティッシュをありがたく使わせてもらい、きっと不細工に違いない顔で涙交じりに言う。

「ゴンさん……私、やっぱりこの仕事が好きです」

 きっかけは城戸さんだったけれど、彼がいなくてもこの世界はとても輝いている。パイロットのために精一杯のサポートをし続けたい。それが私の目標だと、相良さんが改めて実感させてくれた。

 鼻をかむ色気のない私の頭を、彼はごつごつとした手でくしゃっと撫でる。

「東京に行っても頑張れそうか?」
「はい」

 もう迷わずに答えられた。引きずっていた苦い恋の迷路からも、きっとすっきりと抜け出せる……そんな気がした。

 ゴンさんは安心したように微笑んで頷く。

「なにかあったら俺も会いに行ってやるよ。北海道からでも、空を飛べばすぐだからな」

 頼もしい言葉にまた涙腺が緩みそうになるも、なんとか堪えて笑顔で前を向いた。

 空は繋がっているとよく言うけれど、今日ほど感じたことはないかもしれない。松本空港の皆、家族、そして相良さんとも、離れていても繋がっているんだ。

 この場所で感じた始まりと終わりの瞬間を、私はいつまでも忘れはしないだろう。


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