【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
 だが、初めての場所。見知らぬ人々。慣れない仕事。
 定期的にトレイシーには報告をしているが、「引き続き頼む」といった事務的な返事しかこない。
 表情は乏しくとも心はあるため、その不安な気持ちに押しつぶされそうなときだってある。
 そんなとき、どんな事情があってかはわからないが、会いたいと思っていた彼がきてくれたのなら、嬉しくないわけがない。甘えたくないわけがない。
 彼は黙って、そんなエミーリアを受け止めてくれる。薄いナイトドレス越しに伝わるその温もりを感じるだけで、心が満たされていく。だが、彼があのように激しい劣情を抱いているとは思ってもいなかった。
 心臓がトクトクといつもより騒がしいのは、それのせいかもしれない。
 彼を求めたいが、はしたないと思われたくない。彼に求められたいと思いながらも、恥ずかしい気持ちもある。
 相反する気持ちが心の中でくすぶっていて、何も話せずにいた。
「エミーリア」
 彼の凪いだ声が耳元を掠める。その声に、心が震えた。
 間違いなく、彼もエミーリアを求めている。それに応えるかのように、顔を上げた。
 彼の指が顎をとらえ、先ほどとの口づけとは違い、深く求められた。
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