【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
第二章
 エミーリアは、朝早くに騎士館へと向かう。ローランが執務室に現れるより先にという思いがあるからだ。
 まだひんやりとする朝の爽やかな空気が、頬を撫でていく。肩で切り揃えた髪は、きっちりと一つにまとめていた。ばさばさと揺れることもなく、邪魔にならず快適である。
 彼が来る前に、さっと執務室内の清掃を済ます。それも彼の補佐事務官としての仕事である。そして、その仕事をローランも認めていた。
 だから今、エミーリアの手の中には、執務室の扉の鍵がある。
 白い扉に鍵をさすと、カチャリと音を立てて鍵が開いた。ローランは執務室内にはいないようだ。その事実に、ほっと胸を撫でおろした。
 扉を開けて中を見回し、無人であることを確認すれば、再度、安堵する。
 だが、いつエミーリアが部屋に入ったかは、ローランに知られている。扉の鍵の開け閉めは、すべて魔法によって記録されているのだ。その記録を見て、不審な者が出入りしていないかをローランは確認しているとのこと。
 けしてエミーリアはローランと会いたくないわけではない。掃除をするのであれば、部屋にいられると邪魔なのだ。
 ふと、フリージアの言葉が頭に蘇った。それは、エミーリアがローランの執務室の鍵を預かったと報告したときのこと。
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