【コミカライズ決定】愛をささやかないで~婚約解消された可愛げのない事務官は、強面騎士団長に抱かれます
『それって、団長に認められたってことよ。すごいじゃない』
 騎士団に二年ほど身を置いている彼女は、ローランをよく知っている。
『あの団長の補佐事務官ね。本当に長続きしないのよ。補佐役不在の時期のほうが、長いくらいじゃないかしら? でも、団長も遠征で不在にすることも多いからね。特にいなくても不便ではないのかな?』
 そう言ってフリージアは小首を傾げていたが、彼に補佐事務官がいなくてもいいような状況ではなかった。不在にする期間がある分、その間の書類が溜まるのだ。誰か気を利かせて、仕分けして他の者に書類を回すようにすれば、業務も滞りなく進むのだろうが、残念なことに今までそのような人物はいなかった。
 そしてエミーリアの前任のフェリクスも、何をしていたのかがわからないような状況だった。彼からの引き継ぎ書には『ベルが鳴ったらすぐに執務室へ向かうこと』『必要な資料はすぐに準備すること』『とにかく団長を怒らせないこと』と何かの三カ条のように書かれていた。
 ローランから呼ばれない限り、エミーリアの仕事は忙しいものではない。だから、持て余した時間で初めに行ったのは、控えの間の書物と書類の整理だった。だがこれも三日とかからずに終わってしまった。
 となれば、空いている時間はここにある書物に目を通すようにした。フェリクスからの引き継ぎ書にも、ローランから聞かれたらすぐに資料を準備するように書かれていたから、資料の内容を把握しておくのは悪いことではないだろう。
 そんなことを考えながら、エミーリアは執務室の清掃を終えた。隣の休む部屋は、ローランからの指示がないかぎりは清掃する必要はない。彼がそう言ったからだ。
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