三日後に死ぬ彼に血をあげたら溺愛が止まりません
……因みにこの卵焼きは失敗作だ。
味音痴の父親が『味見』と、一切れ口に入れて吐いたくらいだ。そんな父親の姿を見ると、恐ろしくて試食する気が失せてしまった。もちろん、母親にも食べさせてはいない。
せっかく作った卵焼きをそのまま処分してしまうのも勿体ないと、とりあえずお弁当箱に敷き詰めた。
つまり、今、体調が悪いと訴えている純に、全然美味しくないであろう卵焼きを食べさせている私は鬼だと思う。
純は二、三度諸尺し、ごくんと飲み込んだ。
「うまい……かも。全部食べて良い?」
嘘でしょ。純の舌どうなってんの。
ヴァンパイアだからだろうか、もしかしたら人と違う味を欲しているのかもしれない。
念のためにユキと半分こして食べてみようと、
「一切れだけ残してくれたら後全部食べていいよ」
約束通り一切れだけ残してもらい、後の卵焼きは全部食べてもらった。こうして残った一切れを自分の席へ持ち帰り、その一切れを半分こにしてユキと実食する。
「まっず!!!!」
教室内に私の声とユキの声が同時に響き渡った。
美味しい卵焼きを作ろうとして調味料をふんだんに入れたのがいけなかったのか、到底食べられる物ではない。
お互いティッシュに吐き出し、すぐに飲みかけていた飲料水で喉を潤した。
「嘘でしょ……なんなら色からして怪しかったこの卵焼き、安斉くん全部食べたの?」
ゲホゲホと咳き込みながら細い目を向けるユキに「うん!」と大きく頷く。すると、ユキは私の手を取るなり、人差し指をジッと眺めた。
「もー。グサッっていってんじゃん。痛そー……これ、どうせ包丁で切ったんでしょ?」
ユキから言われて、自分の指が調理中に切れていたことが発覚した。