三日後に死ぬ彼に血をあげたら溺愛が止まりません
「う、うん……」
返事を返しながらいつ切ってしまったのかを思い出してみる。
――そういえば、卵を割る時に卵の殻で一瞬痛みがあったことを思い出した。卵の殻で指を切るなんて考えたくもないけれど、思い当たる節はそれしかない。
もしかして……血?
卵焼きに血が混ざったのかもしれない。だとしたら、純が「美味しい」と言って食べていたそもそもの味は私の「血」なのだろうか。
放課後になり、帰る準備をする。
明日も純に食べさせるための、血入りの卵焼きを作る気マンマンの私は『よっし! 頑張るぞ!』と気合いを入れる。当の純はというと、そそくさと鞄を持って教室から出て行ってしまった。
いつもは友人の小柳くんと話をしているのに、やっぱり今日は様子がおかしい。
もしかして卵焼きの不味さが今になってお腹に襲ってきたのだろうか。そうだとしたら完全に私のせいだ。
純の様子を見に行こうと、机に掛けていた鞄を手に取りユキに「また明日!」と挨拶を交わして急いで教室を後にした。
長っぴろい廊下を走って純の背後へと近づく。純の後ろ姿が見え、「純!」と叫ぶと、純は今にも死にそうな、どんよりとした顔で私の方へ振り返った。
「ごめん、やっぱり卵焼き不味かったよね!? 体調悪くなっちゃった?」
純のお腹を擦りながら聞くと、純は違う、と、首を横に振った。そして、「今まで我慢してたんだけどさ」と、話の前置きをした。
「う、うん?」
「人の血は不味くて飲めたもんじゃない。だから俺、三日後に死ぬことにした」
…………は?
「人の血が不味いって……そんなこと今まで言わなかったじゃん」
「うん、だからほんの少し舐める程度にしか摂取できなかった。だけどもう限界。あんな血を飲み続けるくらいなら俺、もう生きてなくていいや」