クールな同期と甘いキス

そして、本城さんと企画部部長の人事異動が午後一で通知された。本城さんは九州、企画部部長は北海道へ左遷された。
二人とも懲戒処分ではなく戒告処分と減給だったのは、社長の本城さんへの温情だったらしい。
しかし、本城さんは月末で退職することにしたらしいと後から噂で聞いた。


本城さんの人事異動が通達され、社内が騒然とするなか私はそそくさと家に帰った。
会社の人にあれこれ聞かれても面倒だもんね。
帰るとすぐに部屋で着替えを住ませ、リビングでリラックスしながらうーんと大きく伸びをする。
なんかここまでリラックスできたのはい一週間ぶりかも。やっと終わった。そう思った。
この一週間、気が重かったが帰り道は目の前がスッキリ明るく見える。

「やっとホッとできたな」

急に後ろから声がかけられ、「ひゃぁぁ」と驚きの声が出る。
部屋着を着た三雲君が微笑んでいた。

「え、三雲君、先に帰ってたの? 驚かさないで~」
「悪い。いい顔していたから見惚れていた」

そう言いながら頭を撫でてくれる。

「色々と心配と迷惑をかけたな。お疲れ様」
「ううん、三雲君こそ。色々とお疲れ様」

そう言いあうと、三雲君が近寄って軽いキスを落としてくれる。
そして思い出したかのようにパッと離れた。

「そういえば、ポストに柚月あての手紙が来ていたぞ」
「手紙?」

どうぞと手渡された手紙の裏を見て驚く。

「お父さんからだ。どうしてここの住所がわかったんだろう」

急いで開ける。
そこには、借金で苦労を掛けた謝罪と返済のめどがついたので私はもう返済しないでいいこと、この住所は借金取りの野沢さんから聞いたとも書かれていた。

「野沢さんに住所聞いたの?」

そういえば、先月会った時に住んでいる場所を教えた気がする。
でも部屋番号までは教えなかったはずだけど……。まぁ、彼なら部屋番号くらいすぐに調べられるか。
野沢さん、今月会った時は忙しいみたいでお金を受け取るとすぐに帰っちゃったけど、その時はすでにお父さんと会っていたのかな。
一言言ってくれても良かったのに……。

「お父さん、なんて?」
「返済の目途がついたから、私はもうお金を出さなくていいって。フフ、自分のために使ってねだって」
「そうか、良かったな」

家を勝手に売られて、帰るところをなくした時は愕然としたけど、そのおかげで一気に返済できたし、それがあったからこうして三雲君とも距離を詰められたんだよね……。
最初は大変だったけど、結果、良かったのかな。

「よし、じゃぁ何か夕飯作るね」
「ケーキとチキン買ってきたよ」
「ケーキとチキン……?」

キョトンとすると苦笑された。

「今日、クリスマスイブ。忘れていたでしょう」
「あぁ!」

カレンダーを見て驚いた。
そうだ、今日はクリスマスイブだった。
今週はずっとバタバタとしていたからすっかり忘れていた。
冷蔵庫には三雲君が買ってきてくれたケーキとチキンが入っていた。

「わぁ、美味しそう。じゃぁ、サラダとか他に食べるもの作るね」
「ありがとう」

クリスマス用に事前に食材は購入していたので、それを使って手早く支度をする。
そうしてテーブルは華やかに準備された。

「明日は休みだし、デートしてどこかレストランでも行こう」
「やった。楽しみだね」

初めての二人のクリスマス。こんな日が来るなんて思わなかった。

食事が終わると私は三雲君をソファーに手招きをする。

「これ、どうぞ」

小さな綺麗な紙袋を三雲君に手渡した。

「クリスマスプレゼント? ありがとう」
「ネクタイピンなの」

川端君にヒントをもらって選んだのは、シルバーのネクタイピンだ。

「うわ、嬉しい。ちょうど前のピンが壊れちゃったところだったんだ」

嬉しそうに顔をほころばせて喜んでくれる三雲君にホッとする。
人生初のプレゼント。喜んでもらえてよかった。

「じゃぁ、俺も。どうぞ」

クッションの間に隠していたようで、小箱を掌に乗せてくれた。
なんだろう。ドキドキしながら開けると指輪が入っていた。小さな宝石が散りばめられており、形はシンプルだけどキラキラしていてとても素敵だ。
指輪をもらうなんて思ってもいなかったので、目を丸くして一瞬固まる。

「柚月?」
「綺麗……。ありがとう」

嬉しすぎてすぐに言葉が出てこなかった。すると、三雲君は私の右手の薬指に指輪を通してくれた。ぴったりだ。

「サイズ、よくわかったね?」
「手に触れた時とかの感覚でこっそり調べた。合っていてホッとしているよ」

三雲君の安心した笑顔に私も笑顔がこぼれる。

「いつか……」
「え?」
「いつか、この手に本物をあげるから待っていて。それまでは予約ということで」

そう言って、指輪とは反対の左手の薬指に触れる。
ここは……。

「泣くなって」

三雲君が笑いながら頬に触れる。
意味が分かったとたん、自然と涙が溢れていたようだった。嬉しくて涙が出るなんて初めての体験。

「ありがとう、三雲君」

抱き着くと、しっかりと受け止めてくれた。

「じゃぁ、クリスマスイブということで今日はずっと一緒に居よう」

熱のこもった目線をよこす三雲君に顔が赤くなる。恥ずかしがりながらも小さく頷くと、ヒョイッとお姫様抱っこで持ち上げられた。
三雲君に抱き着くと、心も体も満たされるような幸せを感じる。

「幸せ……」
「俺も……」

その一言しか出てこない。
今まで大変なことばかりだったけど、三雲君と出会っていろんなことを教えてもらった。
誰かをこんなにも愛せる時が来るなんて思わなかった。

「愛しているよ、柚月」

心の奥底からあふれてくる思い。

「私も、愛しているよ」

スマホに付けたクラゲのキーホルダーが、二人を祝福するように小さく揺れた。




END
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