幸せの伝書鳩 ハートフルベーカリーへようこそ!

13.

 ※このお話には気分を害するような表現が出てきます。 予め、ご了承ください。

 「ウェーンウェーン。」 何やら女の子が声を出していますね。
「うるせえなあ、黙ってろや。」 煙草を吹かしていたおじさんは軽蔑するような目で女の子を見ています。
「ウェーンウェーン。」 女の子はさっきより大きな声を出しました。
「うるせえって言ってるだろう! てめえには分んねえのか! この馬鹿目!」 おじさんはとうとう怒鳴り出しました。
 そんなおじさんたちを見ても周りの人たちは誰一人声を掛けようともしません。
「ウマーウマー!」 女の子は何かを感じたのか、大声を出しながら手を叩き始めました。
「てねえ、うるさいって言うのが分からんのか! 黙れ! 精神異常者目!」 おじさんも我慢できなくなったのか、女の子を叩き始めてしまいました。
「何するんだよ、その子は何もしてないだろう?」 それを見た男の人が慌てて飛んできました。
「今まで何もしなかったくせに偉そうに言うんじゃねえよ!」 「ちょっとちょっと、待ってよおじさん。」
女の子も止めに入ろうとしますが、おじさんは聞いてくれません。
通りかかったお兄さんまで巻き込んで騒ぎが大きくなってきました。

 すると何処からか楽しそうな歌声が聞こえてきましたよ。 「誰だろう?」
「要らんかねえ 要らんかねえ、美味しい美味しい開店焼きは要らんかねえ?」 パンダのような着ぐるみをかぶったおじさんです。
喧嘩しているおじさんたちの所へやってきて、リアカーを止めて言いました。
「おじさんたちおじさんたち、喧嘩をやめて開店焼きはいかがですか?」 「要らねえよ! 帰れ!」
「まあまあまあまあ、怒らずにまずはお一つ食べてごらんなさいな。」 パンダのおじさんはニコニコしながら開店焼きを出してくれました。
 焼けたばかりの甘い匂い、我に返ったおじさんはお腹が空いていることに気付いたようです。 「くれ!」
「怒鳴らなくても目の前に居ますからあげますよ。 はい、おじさん。」 お兄さんたちにも開店焼きを配るとおじさんは何処かへ行ってしまいました。
 あの奇声を上げていた女の子は心配していたお姉さんと一緒に居ます。 おじさんは何か考えてますが、、、。
 そこへ月音君がやってきました。 「あの女の子は可哀そうだった。」
「何でだよ?」 「今まで誰にも優しくされたことは無いんだ。」
「へ、、、どうせあれじゃあ、誰も関わってくれないよ。」 「おじさん、おじさんのそこが間違いなの。」
「俺が?」 「そう。 誰も関わらないって言ったよね?」
「だって、あいつら何も出来ないし、何考えてるか分からないし要らないじゃないか。」 「おじさん、それは違うんだよ。 誰も関わらないって言うけど、おじさんたちみたいな人があの子を不幸者にしてしまったんだ。」
「俺たちが?」 「そう。 あの子が何を訴えてもみんなは聞こうともしなかった。 言ってることが分からないからってそれだけで拒絶してきた。」
「そりゃあ、役に立たないんだもん。 しょうがねえよ。」 「しょうがねえじゃ済まされないんだよ おじさん。」
「何だよ、、、いきなり。」 月音君は泣きそうな顔で訴えます。
「役に立つとか立たないとか、それはおじさんみたいに健康で何の問題も無い人から見た偏見だよ。 この世の中にはいろんな人が居るの。」
そこへ心ちゃんが走ってきました。 「そうそう、おじさんに教えてあげたいことが有るのよ。」
「何?」 「この世界にはね、意識して呼吸しないと死んじゃう人とか、ちょっと動いただけで骨がバラバラになっちゃう人とか、このお姉さんみたいに奇声を上げることしか出来ない人とか、いろんないろんな人たちがいーーーーーっぱい居るの。
おじさんたちが知らないような人たちがたっくさんたっくさん居るの。 健康で何の問題も無い人たちだけじゃないのよ。」
「だから何?」 「おじさんさあ、もしも自分がそうなったらどうする?」
「知らねえよ そんなこと。」 「じゃあ、これ食べてみて。」
心ちゃんは一つの黒い飴をおじさんに渡しました。 「何だこれ?」
おじさんは馬鹿にしたように笑いながら飴玉を舐めていますが、、、。
 「ウェーンウェーン。」 さっきの女の子のように奇声を上げ始めました。
でもやっぱり、誰も関わってくれません。 終いにはおじさんは手を叩き始めました。
おじさんが泣いているのを見て心ちゃんが青い飴玉をおじさんに投げると、、、。
「怖かった。 怖かった。 分かったよ。 もうしないから許してくれ。」 おじさんが泣いて謝ってきました。
 「おじさん、分かったかな? 言葉は分からなくてもこのお姉さんにも心は通じるんだ。 そっと手を握ってごらん。 安心するから。」
おじさんは言われるままに女の子の手を握りました。 奇声を上げていた女の子はすっかりおとなしくなってしまいました。
 精神障碍者ってね、気持ち悪いとか怖いとか危ないとか言われるけれど、そんなこと無いんだよ。
確かにね、気を付けなきゃいけない人だって居るのは本当だけど、大部分はそんなこと無いんだよ。
 何で奇声を上げるのかって? それは寂しいからだよ。
不安だからだよ。 だからね、私はここに居るよって教えてあげるんだ。
それだけでいいんだよ。 難しいことは要らない。
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