幸せの伝書鳩 ハートフルベーカリーへようこそ!

12.

 あれあれ? 白い杖を持ったお兄さんが歩いてきましたよ。 「危ないな。 ぶつかるだろうがよ!」
フラフラと歩いていたおじさんが怒鳴りました。 「え?」
お兄さんはいきなり怒鳴られたので困惑しています。
「お前、見えてるんだろう? ちゃんと見て歩け! 馬鹿!」 何もそこまで言わなくても、、、。

 と思ったら反対側から黄色い杖を持ったお姉さんが歩いてきました。 「こらこら危ないじゃないか! 気を付けろ!」
またまたおじさんが怒鳴っていますが、お姉さんは聞こえていないようです。 「てめえ、聞こえない振りをするんじゃない! 聞け!」
いきなり叩かれたお姉さんは呆気に取られて泣き出してしまいました。
「おじさん 何するんだよ? ひどいじゃないか。」 一人のおじさんが慌てて声を掛けました。
「こいつらが悪いんだ! こいつらが俺の言うことを聞かないから怒ったんだ!」 おじさんは道の真ん中で怒鳴り続けています。
すると、、、。

 「石焼き芋はいかがですか? 甘い甘い石焼き芋。 あなたも一つどうですか?」 リヤカーを引っ張って小太りなおじさんが歩いてきました。
「なんだ てめえまで俺の邪魔をする気か!」 「まあまあ、おじさん。 怒らない怒らない。 お腹空いたでしょう?」
怒っているおじさんは焼き芋の匂いを嗅ぐとお腹がグーっと鳴ったのに気付きました。
「食わせろ!」 「まあまあ、そんなに怒らないでくださいよ。 今、美味しい美味しい焼き芋を出しますから。」
小太りなおじさんはニコニコしながら新聞紙に焼き芋を包んで渡してくれました。
皮の焦げた感じといい、新聞紙といい、リヤカーといい、どれもこれも昔懐かしい石焼き芋屋さんです。
 芋を取り出して炉端に座ったおじさんは食べ始めました。 「お兄さんたちもどうですか?」
小太りなおじさんは立ったままで固まっていたお兄さんたちにも焼き芋を差し出しました。
 三人は並んで黙ったまま、焼き芋を食べています。
さっきまで怒鳴っていたおじさんはなんだか照れくさそうな顔をしていますが、、、。
 そこへ陰丸君が歩いてきました。 「おじさん、さっきの話なんだけどさ、、、。」
「、、、。」 「おじさん、自分が見えるからって聞こえるからっていい気になるんじゃないよ。」
「ん、、、。」 「あのさあ、この世界の中にはいろんな人たちが居るの。 おじさんだけじゃないの。 分かる?」
「でも、、、。」 「見えない人、聞こえない人、話せない人、歩けない人、動けない人、考えられない人、たくさんたくさんの人が居るの。 分かる?」
「それは、、、。」 「おじさんさあ、今までそんな人たちに会ったことが無かったんだよね? それは分かるけど、いきなり怒鳴ったり叩いたりするのは良くないよ。」
陰丸君は真剣な顔で話し続けています。 おじさんは項垂れてしまいました。
「おじさんもやられたらどう思うかなあ?」 「びっくりするかも、、、。」
「だよねえ? お兄さんたちもびっくりしたと思うよ。」 「そうだよね。 悪かった。」
 陰丸君はお兄さんたちを連れてきました。 「おじさんに教えてあげるよ。」
そう言って二人から杖を受け取るとおじさんに向き直って、、、。
 「白い杖を持っていたお兄さんは目が見えないんだ。 黄色い杖を持っていたお姉さんは耳が聞こえないんだ。 二人ともさ、見ただけじゃ本当に悪いのか分からないでしょう?」
「うん。」 「だからね、みんなに分かってもらえるように杖を持ってるの。 おじさんはこれまで教えてもらったことも無かったね?」
「そうだ。」 「おじさんもさあ、これから先どうなるか分からないんだよ。 見えなくなるかもしれないし聞こえなくなるかもしれない。 お兄さんたちはそうなんだよ。 見えないことが、聞こえないことがどれだけ不安化おじさんたちにも分かってほしいなあ。」
「分かった。 分かったよ。 ごめんな。」 おじさんはやっと二人に頭を下げました。
「お兄さんたちも安心してくれたかな? ぼくたちさ、見掛けだけで判断しちゃダメなんだよ。 誰だって見掛けだけじゃ分からない。 気を付けなきゃね。」
お兄さんたちと握手したおじさんは何度も何度も振り返りながら歩いていきました。
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