幸せの伝書鳩 ハートフルベーカリーへようこそ!

15.

 「やめなよ。 や、めなってば。」 若い男を静止しようとおじさんが必死に訴えています。
(何をしてるんだろう?) 別のおじさんが肩越しに見てみると、、、。
 「おいおい、何てことをするんだ! 早く逃がしてやりなさい!」 「うっせえ! どいつもこいつも邪魔すんじゃねえよ!」
男は叫びながら棒で何かを叩いています。
よく見ると袋の中で何かが動いています。 「キャン!」
その声に通り掛かったお姉さんたちも寄ってきました。 「何てことをしてるの! やめなさい!」

 ここは通りの真ん中です。 騒ぎがだんだん大きくなってきたので、子供たちは何処かへ行ってしまいました。
「犬なんか虐めて何をしてるんだ?」 「お前たちには関係無いだろう! 黙ってろ!」
男はなおも棒を振り続けています。 「キャン! キャン!」
「だからやめてくれ! 何回言ったら聞くんだ?」 「ほっといてくれ! 俺はどうせ邪魔なんだろう! どいつもこいつも死んじまえばいいんだ!」
男はだんだんと自分でも何を言っているのか分からなくなってきたようです。

 その時、街角のパン屋さんが扉を開けました。 甘い匂いが辺りに漂ってきます。
怒りに任せて犬を虐めていた男もふとその匂いを嗅ぎました。
「なんて甘い匂いなんだ?」 男がフラフラとパン屋のほうへ歩いていきます。
おじさんたちも慌てて後に続きました。
 店の中では豚猫君がメロンパンを焼いていました。 「やあやあ、お兄さんたち このパンが焼けたからあげるよ。」
哀しそうな目をしていたお姉さんたちも椅子に座ってメロンパンを受け取りました。
 「さあさあ、みんなで食べましょうよ。 冷めないうちにね。」 そこへ心ちゃんも入ってきました。
何やら、若い男をじっと見詰めています。
メロンパンを食べ始めた男は何を思ったのか、急に大声で泣き始めました。
「ちきしょう! 絶対に俺は間違ってなんか無いぞ! 誰が謝るもんか!」 「どうしたの?」
「社長に怒鳴られたんだ。 お前のせいで仕事が無くなったって。」 「仕事?」
「そうだよ。 うまくやれてた仕事がいきなり止められたんだ。」 「何で?」
「仲間が嘘を吐いたんだよ。 それが俺のせいにされちまった。」 「それで犬を?」
「そうだ。 俺はどうせ要らない人間なんだ。 社長からも解雇されちまったんだ。」 「お兄さん、それと犬とは関係ないでしょう?」
「この世の全てが俺を邪魔者にしたんだ。 殺したって虐めたっていいだろう?」 心ちゃんはふと考えました。
(この人は被害妄想なのね? 嘘を吐いた人はもちろん悪いけど、それをきちんと言わなかったこの人も悪いじゃない。)

 「ねえねえ、お兄さん 仲間が嘘を吐いたって言ったわよね?」 「うん。」
「じゃあさあ、それが嘘だって何で言わないの?」 「え? 言ってもどうせ聞いてくれないよ。」
「お兄さんのそこが間違ってるの。 時間が掛かってもはっきりさせなきゃいけないのよ。」 「でも、、、。」
「お兄さんさあ、本当は優しい人なんだよ。 でもね、優しいだけじゃ損をするだけだよ。」 「だからって、、、。」
「損をしたから腹を立てて犬を虐めたんだよね? そうじゃないかなあ?」 心ちゃんは男の目を覗き込みました。
 お姉さんたちは息を飲んで成り行きを見守っています。 そこへ月音君が入ってきました。
「お兄さんさあ、言われるだけじゃあ、あんまりにも損だよ。 きちんと言う時には言わなきゃ、、、。」 「だって、、、。」
「その「だって、、、」が曲者なんだよ。」 周りの人たちを信用してないでしょう? だったら周りの人だってお兄さんを信用しないよ。」
月音君の言葉はおじさんたちの胸にもグサリと突き刺さりました。
「世の中、悪い人ばかりじゃないんだ。 信用できる人だってたくさん居るんだよ。 ここに居るおじさんやお姉さんたちだってお兄さんを心配して来てくれたんじゃないのかい?」
 顔を上げた男は月音君を見ながら涙を流しました。 「そこまで言われたことは無かった。 ありがとう。」
「さあ、犬に謝ろう。 全てはそこから始まるんだよ。」 心ちゃんが袋から犬を出して男の前に連れて来ました。
「ごめんな。 ごめんな。」 泣きながら犬の頭を撫でています。 おじさんたちが席を立とうとしますが、、、。
「おじさんたち、これからもお兄さんの話し相手になってやってくれませんか?」と心ちゃんが言いました。
少し考えていたおじさんたちは笑顔になって男に手を差し出すと、「何か有ったらいつでも相談してくれよ。」と言って肩を叩きました。
お姉さんたちも安心したようですね。 一件落着です。
 言われ損は弱虫な証拠。 言い返す時にはきちんと言い返しましょうね。


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