― 伝わりますか ―
 彼女は凄まじいほどの汗を流して目を覚ました。

 籠はひたすら走り続けている。このまま行けば、引き返すことも出来なくなるだろう。戦いが始まる前に戻らなければならない。
 しかしその時彼女の鋭い耳に聞こえたのは、開始を告げる法螺貝の遠き笛の()であった。

 (いくさ)が始まった!

 月葉は心を決め籠から飛び降りた。見つけられないよう山道を走っていたため急な坂道で、幾らか転がり泥まみれになる。足は従者に草履を預かられ素足であった。

 それでも。

 悠仁采を助けられるのなら、大した苦労にはならない。

「つ……月葉様!」

 突然のことで動転した従者達は坂道に足を取られ、尻餅をついた状態でようやく叫んだ。その間に月葉はもう遠くを走っている。

 彼を助けなければならなかった。もう二度と人に振り回される人生を歩ませてはいけなかった。彼は彼女の半分なのだから。

 ──どうか生きていてください。

 織田に追いかけられた時と同様に従者に追いかけられながら、彼女は必死に走る。

 ひたすら、ひたすら、死を待つ悠仁采の元へ──。


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