貴方に介護(あい)されたい。

3和(溢れてしまったミルクの行き先が決まる?)

 「いただきます。」
 両手を合わせて南無。祖母遺影に話しかけてからさっき買ったコンビニ弁当を食べる。ブランチという名の朝昼兼用ご飯。カットキャベツを皿に盛り、インスタントスープ、そして生姜焼き弁当、豪華ラインナップである。
 食べながら先ほどの事を思い出す。祖母以外で優しく微笑みかけられたのはいつ以来だろう。会社のおじさんたちは、「里帆ちゃん、いいケツだね。」と油断すると体に触れようとする。冗談なのか本気なのかはわからないが、笑った顔はいやらしい。陰キャであるが私は何気に胸がでかい。尻も引き締まっている。そりゃ、まだ二十歳そこそこだもの当然である。これで女を武器にできるくらい器用であれば、違った生活があったかもしれないけど、私には無理ゲーである。
 そういえば桐谷さん興味があればと言っていたな。貰った名刺をポケットから取り出してみる。施設長桐谷洋、紳士の名前。特別養護老人ホーム微笑みの郷施設長と書いてある。住所は、意外と自宅から近い住所。明日、労働基準監督署に失業保険の手続きしたら近くまで見に行こうと弁当を食べ終えてもまだ名刺を眺めていた。
 「佐々木さんは、再就職の当てはありますか?」労働基準監督署の窓口担当の女性が訪ねてくる。
 「いえ、今のところ、何も決めていませんね。」
 「そうですか、でしたら職業訓練を無料で受けられるので、これを機会に手に職を身につけるのもいいかもしれませんね」とパンフレットを渡された。
 私は、「は〜。」と答えるので精一杯だった。
 「手続き等はハローワークで行えますので、是非、ご活用ください。」
 パンフレットを持ち、労働基準監督署を後にした。
 これをどうしろとパンフレットを眺めながら考える。自動車整備士、農家、介護福祉士、色々と充実のラインナップ。しかしながら、学校に通うため最低でも2年はバイトで食い繋ぐしかなくなる。
 「無理」私はそのままカバンにパンフレットを突っ込み、その場を後にした。


 自転車を漕ぐ事15分、
目的の場所に到着した。特別養護老人ホーム微笑みの郷、ここに紳士がいると思うと妙に緊張した。綺麗な外観、管理された植木、花々。素敵な場所だと思わず見惚れる。ただ、私には縁のない場所だ。そう思い、再び自転車に乗り込み施設を後にした。
 通り過ぎようとした際に、ふと掲示板が目に留まった。
 職員急募!
 募集要件
 介護福祉士希望
 初任者研修修了者
 未資格でも大丈夫。親切に指導します。
 要は、人が欲しいのか。ニュースでも取り上げられるように、介護職員の不足はテレビでも良く取り沙汰されている。それは、紳士のところでも同じなんだなと。
 介護福祉士を取れば、資格手当が上乗せされるので、給料が高くなるけど、2年もバイトで食い繋ぐのはキツすぎるし、何より紳士がそれまでいるかもわからないし、受けれるだけ受けてみようかなと、求人募集の掲示板をスマフォで撮影して、帰宅した。
 
 

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