恐怖のギロチン回避! 皇太子との婚約は妹に譲ります〜

55話

 アオが、カサンドラをエスコートしようとした。その手を重ねたとき、カサンドラの心はまた跳ねる。

(な、なんなのこれ?)

 そこでカサンドラは「わがまま令嬢と優しき側近」の本を思い出した。令嬢がエスコートされるとき、側近に触れると心が乱れると書いてあった。今のカサンドラがその状態だともいえる。

 ――まさかね。アオ君は素敵だわ、側近じゃないけど、私の騎士……⁉︎

「ドラ、顔が真っ赤だけど体調が悪いのか? 行くのをやめて引き返すか?」
 
「ち、違うから気にしないで……」

 今のカサンドラにはこの言葉を言うだけで、精一杯だった。シュシュはそんなカサンドラを見て、何か気付いたのか優しく見つめてきた。

(あぁ、シュシュは気付いたようね)

「シュシュ、今は何も言わないで」
「はい、かしこまりました」

「アオ君も舞踏会が終わるまで、私が変でも何も聞かないで」

 ああと頷いたアオ、それすら素敵に見えてしまう。舞踏会が終わった後でこの気持ちを認めよう。変に浮かれてしまって、みんなを危険に晒すかもしれない――と、カサンドラは気を引き締めた。

 チリルの街でラザニアとパン、サラダを買い馬車に戻る。御者はカサンドラ達よりも先に戻り休憩していた。
 お昼を終わらせて、今晩の宿を取るゴロールの街まであと5時間、6時過ぎには宿屋に入れるはず。

「少し眠るわ」
「俺も寝る」
「はい、ごゆっくりお眠りくださいませ」

 カサンドラとアオが眠るのを見て、シュシュは眠らず好きな読書を始めた。その本は騎士と令嬢の恋物語――まさにカサンドラとアオのよう。2人の恋物語を見たいと思うシュシュだったけど。

 買い物に出たマサンの街、先ほどのチリルの街でもカサンドラは考え事をする仕草をしていた。そして、何かに怯えているようにも見えた。
 
 アオもそれに気付いていて移動中は眠り、ゴロールの街で一晩中見張るつもりのようだ。シュシュは、移動中は眠らず、出来る範囲で辺りを気にしている。

 ――2人は大好きなカサンドラを守りたいのだ。


 5時間後、ゴロールの街に着き、この街で高級な宿屋にカサンドラ達は荷物を持ち向かった。御者の部屋を先に取り、鍵を渡して。次に自分達の部屋を取ろうとした、カサンドラをアオが止めた。

「3人一緒の部屋ではなく、2人部屋と1人部屋にしてくれ」
 
「え? ダメなのですか?」
「ダメに決まっているだろう! 俺は男だ」

 そんなのわかっている、という顔をしたカサンドラ。
 アオは夜通し見張るつもりだから、同じ部屋よりも別がいい。物音でカサンドラ、シュシュを起こすかもしれない。風呂上がりのカサンドラを見た、自分がどうなるのか分からない。

「頼む、1人部屋にしてくれ」
「何故ですか?」

 どちらも引かず言い争う2人をよそに、シュシュはカウンターの人と話して、部屋を決めてしまう。

「ツインルームと、シングル、ルームの部屋をお願いします」

「かしこまりました、こちらがツインルームの鍵で、こちらがシングル、ルームの鍵です。夕食は大ホールで8時までビュッフェスタイルです。朝食もビュッフェスタイルで6時から8時まで、チェックアウトは10時までにお願いします」

「わかりました、料金は前払いでお願いします」

「はい、料金は一泊ツインルームが30000ピール、シングル、ルームが2つで30000ピール合わせて、60000ピールになります」

「わかりました、ドラお嬢様、アオ君行きますよ」

「「え?」」

 会計も済ませてしまい、カサンドラとアオは、シュシュの後について行くしかなかった。
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