妹に婚約者を奪われた私は、呪われた忌子王子様の元へ

仮面

 昼下がり、私室にて編み物に没頭しているティアリーゼの元にレイヴンがやってきた。

「そろそろユリウス様はお茶の時間となりますので、ご報告に参りました」
「分かりました」

 ユリウスの休憩時間は共に過ごすこととなっている。ティアリーゼはすぐに立ち上がった。

「そして申し訳ないのですが、ユリウス様がまたティアリーゼ様の淹れたお茶をご所望でして」
「わたしで良ければ、いくらでもお淹れ致します」
「助かります」

 二人は厨房へと向かった。ティアリーゼがお湯を沸かしている間、レイヴンがワゴンやティーセットを準備し、料理長自慢の焼き菓子が皿に乗せていく。
 準備を終えると、レイブンと共にユリウスの私室へと向かった。

 扉前までティーワゴンを運び終えたレイヴンは「失礼致します、何かあればお呼び下さい」と言い残し、その場を後にした。
 廊下に一人となったティアリーゼは、硬い扉を叩く。乾いた音が響くのみで、何度叩扉をしてもユリウスの返事は返ってこなかった。
 静寂に疑問を感じ、そっと扉を開けてみる。

「ユリウス様?」

 もしかすると、部屋にいない可能性もあるのかもしれないと思案したが、よく見ると長椅子に黒い塊が横たわっている。

(眠っていらっしゃるわ……)

 初めて彼の眠る姿を見た。
 眠るユリウスを視界に映し、瞠目しながら静かに近づいた。「ユリウス様でもお眠りになられるのね」と自分でもよく分からないことを呟きながら、長椅子に横たわるユリウスの側に、ティアリーゼはゆっくりと腰を下ろす。

 形の良い薄い唇からは、かすなか寝息の音が確認でき、胸が僅かに上下している。
 目元は硬い仮面に覆われたまま。
 やはり寝ていても仮面は付けたままらしい。

(仮面、邪魔じゃないのかしら?)

 一日の中で仮面を外すことはあるのか、甚だ疑問である。流石にお風呂にまでは付けていないと思うが、謎に包まれていた。
 ティアリーゼは手を伸ばし、そっと仮面に触れてみた。
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