悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜

 食事の途中、王子は騎士団長のエリオットに呼ばれ、急遽席を外すことになったが、メリアンは、王子が席を外したことで少し気が楽になった。もちろん周りにはモーリスや他の使用人が見守るようにいるのだが、それでもメリアンにとって王子は特別な存在だった。子供たちも王子に慣れたとは言え、遠慮がちなところもあり、メリアンにコソッと本音をこぼした。

「きのうのごはんも、きょうのもとってもおいしいけど、おかあさんのごはんもたべたいな。」
「リリスも。」

 自分の処遇も分からないうちに子供たちに約束出来ることはなく、「ありがとう。」とだけ返した。

 食事が終わっても、王子は戻ってこなかったため、三人はそのままモーリスに連れられ部屋に戻った。モーリスはしばらくの間、メリアンと子供たちに付いてくれるという。その理由を訊ねると、「メリアン様のことを考えなさって殿下が決めたことでございます。」と答えた。

「それはどういう意味でしょう。」
「あなたが少しでも安心して宮殿でお子様方と過ごしていただけることが殿下の希望でございます。」

 メリアンは王子の考えに混乱しつつも、その後メイドたちに世話を焼かれながら、寝るまでの時間を過ごし、子供たちと一緒にベッドに入った。

 子供たちは新しい環境にも長旅にも疲れたのか、いつもなら「お話をして。」とメリアンに童話を聞かせるようにせがんでくるのだが、今日はベッドに入るとすぐに眠りについた。一方のメリアンはなかなか寝付けなかった。

 心配や不安が頭の中を巡り、何度も目を閉じ深呼吸を繰り返したが、落ち着かない。

 流されるまま王宮に来たことが本当に正しかったのか、いつまでここにいるのか、自分も子供たちも、これから、どうなるのか…考えたところで答えなど出ないのは分かっていたが、それでも心の中では悩みが渦巻いていた。

 そこにトントントンと扉をノックする音がした。

 メリアンはゆっくりとベッドから出て、警戒心を持ちながらそっと扉を開く。するとそこには王子がいた。

「…どうかされたのですか。」

 予想外の訪問者に驚いたメリアンが訊ねると、王子は「いや。」と困ったように答えた。

「…」
「…」

 それからしばらく沈黙が続いた後、王子は「良い夜を。」と一言残し、後ろにひっそりと控えていたエリオットと共に去っていった。

 メリアンは王子の訪問に戸惑いながらも、彼が自分たちのことを気にかけてくれているのだと感じ少しほっとした。王子がなぜ訪ねてきたのか、何かを話そうとしたのかは分からなかったが、彼が自分たちを気遣ってくれていることには変わりがない。

 メリアンは子供たちが安心して眠る様子を見て、今はこの場所で彼らと一緒に過ごすことに専念することに決めた。

 もちろん、将来のことについて考えるのは避けられない。自分たちの運命はどうなるのか、何が待ち受けているのか、不安は常につきまとっていた。

 しかし、今は子供たちと共に眠りにつき、次の日を迎えるための体力をつけることが大切だと思った。自分たちの未来がどうなるにせよ、今できることを一生懸命にやることが大切だと思えた。

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