悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜
第三章

六年前

 ー 六年前 ー

「殿下、あなたはただ気持ちよくなっていればよいのです。」

 二十歳になる前日、フェルディナンド王子は、初恋の人に跨がられ、そう告げられた。可愛らしかった赤髪の少女は、美しく色気のある女性に成長した。そんなメリアンに九年間も拗らせた恋心を抱いてきたフェルディナンド王子は、彼女の誘惑に抗えるわけもなく、ひたすら一生懸命なメリアンが可愛くて、愛しくてしょうがなかった。その上、なんとも良い眺めだった。

 フェルディナンド王子は、メリアンが自分の部屋から去った後、一人夜空を見上げながら、メリアンのことを想っていた。

 メリアンは昔から、たくさん笑ったり、怒ったり、喜んだり、凹んだり、泣いたり・・・と感情が激しい。コロコロ変わる表情が、フェルディナンド王子にとっては、メリアンに惹かれる魅力の一つであった。
 そんなメリアンだったが、エレオノーラが現れてからひどく嫉妬をするようになる。エレオノーラに対して直接的な攻撃というよりも、フェルディナンド王子が絶対に気づくような行為を繰り返し、王子に直接彼女の気持ちを伝えようと必死だった。
 言わばフェルディナンド王子限定の「構ってちゃん」だ。
 フェルディナンド王子は長年メリアンを愛し、メリアンの行動を読むことが容易だったため、それを嫌がるどころか、率直に可愛いと思っていた。

 そんな彼の拗らせた心理が、全てを複雑にしてしまったのだが・・・。

 実際、舞踏会のためにエレオノーラに贈ったドレスも、何かしでかすかもしれないとの想定済みで、予備のドレスを数枚用意していたほどだ。

 エレオノーラが美しい女性だというのは誰の目から見ても分かることだったが、フェルディナンド王子にとって、メリアンに勝る女性はいない。エレオノーラの輝く金色の髪よりも、情熱的ででも柔らかな赤髪が大好きだ。好きな人には素直になれないフェルディナンド王子にとって、所詮エレオノーラは、兄のハンネス王子の「運命の人」であり、自分の相手としての意識が一切ない分、話しやすいという存在なだけであった。

 明日自分は二十歳を迎える。メリアンももう十八歳だ。

 今まで、まだ未婚であった第一王子である兄を立て、婚約者であるメリアンとの婚姻を先に進めることはなかった。しかし、一度感じてしまった肌を、もう手放すことはできない。毎日この可愛い存在を腕に抱いて眠りたい。

(メリアンとの婚姻を早急に進めよう。)

 ・・・フェルディナンド王子はそう決心していた。
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