悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜

おじいさま

 春の嵐がカタルニア王国王宮にやってきた。

 メリアンはそんな荒く激しい様子の中年男性と向かい合っている。厳しい表情をしたその人は、何を隠そうメリアンの父親であるシュトルツ公爵だ。実に六年ぶりに会う父親。濃い赤茶髪と髭が特徴的だったが、今では白髪がかなりの割合を占めている。

「メリアン、お前という娘は。」

 シュトルツ公爵は、数年前に大臣としての職を辞し、王都から離れた領地で暮らしていたが、メリアンが発見されたとの知らせを聞き王宮へと二年ぶりに戻って来たのだ。

 王宮に出向くと言う事前の知らせは届いていたものの、メリアンは父親との再会に緊張していた。メリアンは六年前、家族にすら言わずに家を出た。そのことで迷惑もかけただろうし、心配もさせただろう。

「お父様、この度は大変申し訳ございませんでした。」
「この六年間、どれだけの兵がお前のために動いたと思っている。それに、フェルディナンド殿下のご苦労も… 彼はお前を見つけるために、自ら捜索に出向いてくださっていたのだぞ。」
「お父様、殿下、そしてたくさんの方々にご迷惑をおかけしたことは承知でございます。」

 メリアンが深く反省したように頭を下げる。

 本来二人だけで話す予定だったが、父親が一日早く王都についたことで、そのことを知らずに前庭で散歩をしていたメリアン、フェルディナンド王子、双子、そしてモーリスに出会したのだ。

「こんなところでは、なんですので・・・」

 モーリスがそう促そうとすると、モーリスの後ろにいてシュトルツ公爵からは今まで見えなかった双子たちがメリアンを守るようにいきなりメリアンの前に飛び出して来た。

「おかあさんをいじめたらだめ!」
「だめえ!」

 子供のことはまだ知らされていなかった父親に、子供たちのことを報告するタイミングを見計らっていたが、まさかこんな形で知られてしまうとは。

「ルカ、リリス、下がっていなさい。」

 子供達の顔や、子供達に接するメリアンを見て、シュトルツ公爵は眉を顰めた。

「・・・メリアン、まさか、この子たちは」
「・・・私の子でございます。」

 案の定、シュトルツ公爵は娘の言葉に驚愕し、「どうして…どうして黙っていたのだ?」と混乱したように問いかけた。

「私は、自分の責任で産み、育てたかったのです。父上にも、他の誰にも、迷惑をかけたくなくて。」
「けれど、この子たちは・・・」

 フェルディナンド殿下の子供だろう、と続けるのを迷ったようだった。二人は誰が見てもフェルディナンド王子にそっくりだ。けれど、たとえ推測だとしても、こんな大事を易々と言葉にしてはいけないと、元大臣なりに悟ったのであろう。

 シュトルツ公爵は頭を抱えていた。

「国王陛下や王太子殿下は知っているのか。」
「モーリス、子供たちを部屋に。」

 これ以上は子供たちには聞かせられないとフェルディナンド王子は判断し、メリアンが答えを伝える前にモーリスに告げた。モーリスは「承知いたしました。」と言い、子供たちの手を握り、この場から立ち去った。

 シュトルツ公爵のため、王宮ないの一室に場所を設けると、フェルディナンド王子は、メリアンの側に構えた。そして、自分が全てを伝えるというように、口を開いた。
「シュトルツ公爵、さぞ驚いたであろう。お前の推測通り、あの子たちは、私の血を分けた子供たちだ。」
 メリアンは少し驚くように目を見開く。
「そうだな、メリアン?」
 メリアンは戸惑いながらも、こくりとうなずき、初めてそのことを王子の前で認めた。フェルディナンド王子はそのことに少し安心したように息を吐いた後、続けた。

「国王である祖父、そして父には私からすでにその可能性は伝えている。周りのものもみな気付いているだろう。しかし、私もまだ子供たちに、自分が彼らの父親であるということは告げていない。五年もの間、父親らしいことなど一つもしてあげられなかった人間が、父親だと名乗り出ることは出来ない。彼らとの絆をきちんと結んだ上で、堂々と彼らに父親だということを認めてもらいたい。そして、二人の父親として、祖父、父には、彼らを紹介したいのだ。」

 メリアンは王子がそのような考えを持っていたなどとは知らなかった。自分が父親なのかと聞いてこなかったのは、フェルディナンド王子の中で、自分はまだ彼らの「父親」ではないという認識からだったのだ。

「そうでしたか。国王陛下も、王太子殿下も、お広いお心をお持ちで、感謝いたします。子供たちと貴方様との関係は、貴方様にお任せいたします。メリアン、でも私は違う。私はお前の父親だ。もう一度、彼らに会いたい。ちゃんと紹介しなさい。」

 シュトルツ公爵の言葉に、メリアンは頷いた。

「はい。子供たちにも、ちゃんとお父様を紹介したいと思っています。」
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