悪役令嬢は王子との秘密の双子を育てています 〜見つかったので処刑されるかと思いましたが、なぜか溺愛されました〜
ー現在ー

 青空が広がる暖かな日、王子とメリアンは宮殿の中庭を散歩していた。サルスベリの蕾が徐々に色づき始めており、もうすぐこの庭は、綺麗なピンク色が咲き溢れるだろう。鳥たちのさえずりが心地よく響き渡り、庭園は幸せな雰囲気に包まれていた。
 今日のメリアンは、いつもにも増し美しい。真っ赤なドレスが、彼女の白い肌を引き立てている。このドレスは、繊細な刺繍や軽やかなスカートが特徴だ。メリアンが王宮に来てから着ている他のドレスも、全て、フェルディナンド王子が、メリアンがいない間にメリアンのために仕立てたものだと聞いた時、メリアンは彼の愛情の深さにびっくりした。全てを着終えるまで、あとどれくらいの日がかかるのか想像もつかないほどの数がまだ眠っている。
 今日は、陽が強いからと、王子に帽子をかぶらされた。真っ白な帽子には、赤いリボンがついていて、これも、メリアンのために特注したらしい。どこか、幼い時にかぶっていたものと似たデザインの帽子に、メリアンは懐かしさを感じた。偶然だが、今日の服装ともマッチしている。広いつばが陽を遮り、メリアンの顔を優しく包み込む。

「とても似合ってる。お前の赤髪ともぴったりだ」

 フェルディナンド王子はメリアンを見つめながら、満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございます、殿下。あなたが用意してくださるものは、いつも私好みで、どれも素晴らしいものばかりで、とても幸せでございます」
 王子は優しくメリアンの手を握り、彼女の目を見つめた。
 その時、風がさっと吹いて、メリアンの帽子が飛ばされた。メリアンは驚いて帽子が飛んでいく方向を見つめた。その先は、今は葉だけになっている、『あの時』のマグノリアの木だった。

「初めて会った日、お前はこの木を悲しそうに見ながら泣いていたな」

 フェルディナンド王子は感慨深そうにそう言った。

「はい、殿下。この髪色が好きではなかったもので、どうしても帽子で隠したかったのです。けれど、この髪色も今は、そう悪くないかと・・・貴方様のおかげで思えるようになりました」

 嬉しそうに言うメリアン。フェルディナンド王子は、片手を挙げ、以前よりもスムーズに、風の精霊魔法を使い、その帽子を取り返した。そして、それを手に持ちながら、メリアンを見つめた。

「メリアン、私はあの日、お前のことを天使のようだと思った。可愛くて、無垢で、神々しかった・・・。この髪色もずっと気に入っている。あの頃からお前を私の妃にと望んでいた。それはもちろん、お前がいなくなった六年間も、そして今も変わっていない。お前がいることが私の力であり、お前が私の活力だ」

 フェルディナンド王子は真剣な表情だ。そしてメリアンの前で跪いた。

「お前はまだ形式的には、私の婚約者のままだ。けれど、それは子供だった私が、お前を独り占めしたいからと、王族の権力でお前を婚約者にさせたまでだ。こんな私だ。お前にとって、良い夫であり、子供たちにとって尊敬出来るような父親であることを心がけていくつもりだが、これからも不用意にお前を傷つけてしまうこともあるかもしれない。けれど、どんな時でも私はお前のことを愛していると言うことを、信じてほしい。私の命をかけて、お前と子供たち、そして、これから増えるかもしれない家族を一生愛し抜くことを誓う。だから、メリアン・・・、メリアン・シュトルツ、私の赤髪の天使・・・、私と結婚してくれ」

 そうして、フェルディナンド王子は手に持っていた帽子をメリアンの頭にかぶせた。メリアンはその瞬間、感極まったような表情を浮かべて王子を見つめた。

「・・・フェルディナンド王子」

 初めて出会った時に一瞬で惹きこまれた美しい青の瞳が、メリアンを愛しそうに見つめ返している。嬉しくて、幸せな気持ちで胸がいっぱいだ。

「もちろんです」

 メリアンがそう言葉を発した瞬間、周囲に不思議なエネルギーが集まる気配がした。そして色とりどりの花びらが舞い、噴水からは高く水が噴き出した。そして大きな虹が掛かった。その光景はまるで二人を祝福しているよう。それが、二人の様子を陰で見ていたルカとリリスの精霊魔法によるものだと知った時、メリアンの堪えていた涙が溢れ出た。

 二人はこの日のために、一生懸命今日のサプライズを王子と練習をしてきた。帽子を飛ばすところから、噴水や花びら、虹の演出まで、すべてを子供たちと一緒に考え、計画してきたのだ。

 子供たちはモーリスに連れられ、嬉しそうに二人の前に現れた。

「おとうさま、成功したね!」

 自分たちの魔法が成功したことと、両親の幸せそうな姿に大喜びの子供たちを、フェルディナンド王子は抱き上げた。

「ああ、お前たちのおかげで大成功だ!ありがとう」

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