初めての恋はあなたとしたい

拓巳サイド

「祐樹、見せてよ」

ひとりっ子の俺に兄弟はいない。
親友に妹が出来たと聞き、俺は浮き足立つように母親に連れられ親友の家へ入った。

「おい、手を洗えよ!」

「分かってるよ」

小学校に入ったばかりの俺たちはギャーギャー言いながら洗面所で手を洗うと急いでリビングへと戻ってきた。
ベビーベッドに寝かれているとても小さな赤ちゃんを見ると釘付けになった。

「美花って言うのよ。拓巳くんも仲良くしてくれる?」

祐樹のママに声をかけられ、ハッとした。
この小さな赤ちゃんから目が離せないでいた。

「うん」

赤ちゃんはしばらく見ているとフッと目を開け、俺と目があった気がした。そして笑いかけてくれたのも束の間、ふぇーんと小さな声で泣き始めた。

「あらあら、美花ちゃん。起きたの?」

おばさんはベビーベッドから赤ちゃんを抱き上げるとお尻を軽くトントンとリズムよくあやしている。俺はその姿もずっと目で追い続けてしまう。
そのうちに俺のママに赤ちゃんを預けるとミルクを作りに行ってしまった。
ママに抱かれている赤ちゃんをさっきよりもさらに間近で見るが、つい手を伸ばしてしまうと俺の指をぎゅっと握りしめてきた。
柔らかくて、温かくて、少しだけ湿っていて……何ともいえない気持ちになった。

「拓巳くん、ミルクあげてみる?」

気がつくと哺乳瓶を持ったおばさんがそばにいた。俺にママの隣に座るよう促すと赤ちゃんを膝の上に乗せてくれる。

「首の後ろを手で支えるのよ」

ママに言われ頷いた。
おばさんに哺乳瓶を渡され、そっと赤ちゃんの口元に持っていくとすごい勢いでミルクを吸い始めた。

「わっ……」

「大丈夫。美味しそうに飲んでるね」

おばさんの顔を見ると笑って頷いていた。
俺はまた赤ちゃんに視線を落とすと目が合った。俺の顔をじっと見つめているその目はとても綺麗でキラキラしていた。
俺はずっとずっとこうしていたいと衝動に駆られる。赤ちゃんってこんなに可愛いものなのだろうか。頼りないこの存在を守らなければ、と自然と思った。
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