初めての恋はあなたとしたい
この日の夜、ヤキモキしていても仕方がないと意を決して連絡を取ろうとしたがタイミングが合わず、シカゴに飛ばなくてはならなくなった。気になって仕方ないが、副社長としての責任もある。
向こうでの移動範囲が広いため、俺はプライベートジェットで向かうことになった。
到着しても彼女のことをふとすると思い出してしまう。メッセージを送ろうとするが内容が浮かばない。他愛のないメッセージを送ってみたらいいと思うのだが、指が動かない。部屋でスマホを眺めたまま思案していたら、驚いたことに意中の人物からのメッセージが入ってきた。
自分に相談したいといった内容で、すぐさま了承する返事をした。
まさか自分を頼ってくれるなんて、と舞い上がるくらいに嬉しくて、顔が緩む。このチャンスを機に彼女に伝えられたらと思うと、心が晴れるようにすっきりとした。
けれど帰国したと同時にまた打ちのめされてしまう。
意気揚々と美花ちゃんを探し、約束をしようと足早に彼女の職場へ向かうが時間的に昼時。この前話していた食堂を遠くから覗き込むと、すぐに見つけることができた。何故か彼女のことは昔からすぐに見つけることができる。喜んだのも束の間、その隣にいる人間に思わず唇を噛んだ。俺は何も考えずにつかつかと歩き、彼女の背後に立った。彼女の視線に入らないのをいいことに、ふたりを威嚇するように視線で睨みつけた。きっと俺の雰囲気を見てふたりは感じるものがあったのだろう。何とも言えない表情を浮かべていた。
仲の良さもアピールできたと思いたい。
だが、せっかく連れて行った食事も、最初こそ喜んでいたが帰る頃には表情が翳っていた。その理由はどうしてもわからない。俺は何かしてしまったのだろうか。結局相談もなく、解散してしまった。目が合った時、思わず抱き寄せてしまいそうになったが、翳る彼女の表情に手を出せず、言いたいことも言えずに終わった。祐樹にまた「ヘタレ」だと思われるんだろうな、と家に帰ってから反省した。
ため息をつきながらテレビを観ていると、仲の良さそうなカップルが映っており驚いた。慌ててテレビに近寄るとお揃いのユニフォームを着て、ひとつの膝掛けを一緒にかけている美花ちゃんだった。肩を寄せ合い、楽しげに話し合う姿は間違うことなくカップルだ。
食い入るように画面を見つめていたが、あっという間に切り替わってしまった。
あいつは同期だと言っていた男のはず。それなのに何故?と混乱してしまう。
彼女の言葉を信じるのならまだ付き合ってはいないはず。ならば急がなければ、と休みをヤキモキしながら過ごした。
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