初めての恋はあなたとしたい

急展開

今の状況がわからない…。
なぜたっくんに会議室で詰め寄られなければならなかったの?
たっくんだって女優さんと仲良くしているじゃない。
お兄ちゃんでもないのに放っておいてよ、という気持ちと、彼に夏木くんとの関係を疑われたことが悲しいという気持ちが交差して逃げ出してしまった。
やっとの思いでもう彼から離れなければならないと考え、泣きながら週末を過ごした。こんなに彼を好きなのに、もう諦めなければならないと思ったところだったのに何故彼はわざわざ目立つような真似までして職場に来たの? お兄ちゃんですらそんな真似はしない。
会議室を飛び出し、トイレに駆け込むと堰を切ったように涙が溢れ出てきた。
嗚咽を隠すように水を流し、手にしたハンカチを顔に押し当てる。

「うぅ……」

仕事に戻らなければならないのは分かってる。でも心が落ち着かない。
夏木くんとの仲を勘違いされただけで、誤解してほしくないと感情が昂ってしまう。

「もう、やだ……」

小さく呟くような声が出た。
たっくんを好きすぎる自分も、女優さんが彼にはいるって頭では分かってるのに諦められない自分も。
夏木くんとの仲を疑われただけで取り乱してしまう自分も嫌だ。
社会人としてトイレにこもっているわけにも行かず、両手でパンパンと顔を叩くと目元のメイクだけ直しトイレを出た。
デスクに戻ると、私が食堂から副社長と出て行ったとまた噂になっているようでみんなからの視線を感じる。さっきまでは夏目くんと、今は副社長と……自分のことながらどれだけビッチに思われているのかとため息が出てしまう。
人目を避け、淡々と仕事をこなし定時に退社した。こんなにも居心地が悪いのは初めてだった。
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