【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「……すまない。腰を痛めているんだったな。今日はもう、これ以上無理はさせないから……」
「……やめちゃうんですか?」

 吐息混じりの、どこか残念そうなルイスの声。
 彼女は大好きな人に向かって手を伸ばし……。たまたま、その手がグレンの尻尾にあたった。

「……ふわふわ」

 金の髪をベッドに散らし、緑の瞳を潤ませて。頬を蒸気させながら。
 ぼうっとした彼女は、無邪気にグレンの尻尾をふにふにといじる。

 獣人には、耳だけでなく、尻尾も生えている。
 しかし、彼らの尻尾を見る機会は少ない。
 その国の文化にもよるが、獣人の尻尾は、基本的に隠すべきもので、気軽に他者に触れさせていいものではないのだ。
 服の中にしまっている者もいるし、窮屈なのが嫌な場合はマントや腰布で隠していることが多い。
 獣人の尻尾は、女性の胸に近い扱い・感覚であると話す者もいるぐらいだ。
 そんなことだから、グレンは、他者に尻尾を触られた経験など、ないに等しかった。
 幼いころ、尻尾の手入れの仕方を教わったことがあるぐらいだろうか。

 獣人の尻尾は、それこそ、恋人、婚約者、配偶者、といった者にしか、触ることが許されない部位だ。
 ルイスも、この国の貴族としてそれは知っているはずなのだが。
 理性が飛んでいるのか、獣人の尻尾に触れてもいい仲であると認識したのか。
 ルイスがどんな思いなのかまでは、今のグレンには、わからなかったが――。
 愛する番に、ふにふにと尻尾を触られて。
 ふわふわ、気持ちいい、なんて言われて。
 グレンの理性は、崩壊した。

 一夜だけの思い出、のはずだったのに。
 たった一度の思い出などには、ならなかった。
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