【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 17歳になる前、番を見分ける嗅覚が発現したときは、恐怖した。
 もし、グレンと顔を合わせて、彼が自分の番ではないとわかってしまったら。
 そう思うと怖くて。彼女は意図してグレンに会うことを避けるようになった。
 1つ上のグレンは、まだ嗅覚が発現しないようだと聞いて、安心もしていた。

 けれど、グレンが18歳の誕生日を迎えて少し経ったころ。
 彼が番を見つけたことを知った。
 相手は、アルバーン公爵家の傘下にあり、繋がりも深い子爵家の娘、ルイス・エアハート。
 婚約披露パーティーの招待状も届いたが、とても参加する気にはなれず。
 体調不良だと言って、欠席した。
 事実、グレンが番を見つけて婚約したことを知ったカリーナはしばらく寝込んだから、体調不良というのも嘘ではない。

 二人の婚約からしばらく経っても、カリーナはグレンを諦めることができなかった。
 カリーナは、思うのだ。
 ずっとそばにいた幼馴染が番だったなんて、そんな話、現実にあるものではないと。
 獣人からすれば、誰かが描いた夢の世界のお話だ。
 そう、話ができすぎているのだ。
 カリーナに、ルイスが本当にグレンの番なのかどうかを判定することはできない。
 けれど、付け入る隙はあると思った。
 グレンは、家柄を飛び越えて幼馴染と結婚するために、彼女が番であると嘘をついている。
 真の番は自分で、グレンは嗅覚が発現しないタイプ。
 カリーナがそう主張すれば、カリーナ側につく人もいるはずだ。

 だから、カリーナは。
 無理にでもグレンを自分のものにするために、事前の約束もせず、西方へ向かって飛び出した。

 グレンに会ってみて、わかった。
 自分の番は、彼ではない。彼から、番の匂いは感じない。
 カリーナの本能は、グレンに反応しない。他の男性と同じ。
 ただ、彼自身の香りや気配を感じるだけだった。
 けれどもう、自身の気持ちをとめることはできなくて。
 自分こそが真の番である、ルイスは偽物だと主張し、彼を奪い取ろうとした。
 筆頭公爵家に生まれた自分がこんな嘘をついたと知られたら、カリーナは相応の罰を受けることになるだろう。
 でも、リスクを抱えることになっても構わない。
 初恋の人を、手に入れることができるのなら。

「絶対、諦めないんだから」

 やわく拳を握り、きゅっと唇を噛む。
 カリーナの呟きは、誰に届くこともなく、車輪の音にかき消されて消えた。
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