【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 アルバーン家の面々は、グレンを信じているし、ルイスのことも次期当主の婚約者として扱ってくれている。
 だが、外へ出ればどうだろう。
 きっと皆、ひそひそと話しながら、ルイスに視線を向ける。
 ルイスを気遣っているのか、今のところ、この騒動があってから社交の場に出ることは求められていないが……。
 それだって、限度があるだろう。
 いずれルイスは、好奇の目にさらされる。
 四大公爵家の娘であるカリーナの主張が通れば、グレンの婚約者は彼女になり、偽物のレッテルを張られたルイスはなにもかも失うだろう。

 あらゆる不安と恐怖が、ルイスに襲い掛かっていた。
 それになにより、彼女が嫌だったのは。

「……グレン様のこと、信じられないなんて」

 きみこそが俺の番だ、というグレンの言葉を、信じきれない自分だった。
 あれは、15歳ぐらいのころだったか。
 彼は以前、こんなことを言ったことがある。

――自分が獣人じゃなかったら、って。思うことがあるんだ。

 ルイスは、苦しそうに紡がれた彼の言葉を思い返していた。
 今度は、ルイスが似たようなことを考えている。

「私が人間じゃなくて、獣人だったら」

 ルイスのほうからも、グレンが己の番か否かの判断ができた。
 自分こそが彼の番であると、胸を張ることができた。
 でも、ルイスは人間だから。
 番を見分ける嗅覚などない。グレンとカリーナ、どちらが本当のことを言っているのか、わからない。
 どうして、自分たちは違う種族として生まれてしまったのだろう。
 悲しくて、たまらなくて。やるせなくて。
 ルイスの緑の瞳からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていく。
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