【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 クラークによる「検証」が行われた日の夕刻。
 自分に与えられた部屋で休んでいたルイスの耳に、ノックの音が届く。

「ルイス。俺だ」

 続いて、グレンの声が。
 名乗ってはいないし、ドア越しだから姿も見えないが、この声はグレンのものだ。
 長年の片思いの相手で、やっと結ばれた人。ルイスが間違えるはずもない。
 ルイスは、彼の来訪に喜んで扉を開けた。

「はい、グレンさ、ま……」

 婚約者の顔があると思い、見上げた先にはなにもなく。
 少し視線を下げると、そこには。

「クラーク……?」
「ん。こっちも大丈夫だね。ルイス義姉さんがこれならいけるでしょ」

 グレンではなく、クラークの姿が。
 近くにグレンはいないから、先ほどの声はクラークのものだったようだ。

 そういえば、兄弟だから元々の声もちょっと似てるかも……?
 でも、グレン様と間違えるなんて……。

 グレンだ、と自信満々だったのにこれだ。ルイスはがっくりと項垂れた。

「騙してごめん。でも、必要なことだったんだ。それじゃ」

 クラークの用は済んだらしく、彼はあくまでクールに、すたすたと立ち去っていく。
 
「……? なんだったんだろう」



 きょとんとするルイスに見送られながらも、クラークはぼそりと呟く。

「兄さんとルイスの名誉を傷つけたこと、僕は絶対に許さない」

 小さな声は、ただの人間であるルイスには届かなかった。
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