【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 あの騒動から数週間ほどが経った今も、カリーナはアルバーン領に滞在している。
 グレンの真の番は自分だ。ルイスとの婚約を解消させ、自分と婚姻を結び直すべきである。
 そういった手紙を出した効果もあり、カリーナの故郷である東方や、王家がおさめる中央では、それなりに話が広がり始めたようだった。
 使用人を通じて得た情報によれば、今のところはカリーナが優勢。
 やはり、初恋の幼馴染が番だったなど、話ができすぎているとみなが思うのだ。
 身分の壁がある相手を手に入れるために嘘をついているのがグレンで、真実を言っているのがカリーナ。
 そう見る者が多かった。

 おそらく、カリーナ優勢となったことには、子爵家のルイスと四大公爵家のグレンでは、身分の差がありすぎることも影響しているだろう。
 下位貴族として生まれながら、筆頭公爵家の妻になるなど、認めたくない者、嫉妬心を抱く者も多いのだ。
 しかし、カリーナは違う。
 グレンとは同格の家柄だから、格差を問題視する者や、やっかむ者もいない。
 カリーナがそうだと言えば、強く非難できる者もいない。

「このままいけば……私が……。グレンの『番』に」

 滞在中の宿の一室で、カリーナは口角を上げる。
 カリーナの計画は順調に進んでいた。
 この調子なら、グレンの婚約相手はカリーナに変更されるだろう。
 
「子爵家風情が、あの人に嘘をつかせてまで結婚なんてしようとするからこうなるのよ」

 ルイスこそがグレンの真の番である可能性も、まったくのゼロではない。
 しかしカリーナは、グレンを奪い取れそうになったことで、「きっとグレンも嘘をついているのだろう」という考えを強めていた。

「自分こそが番だって主張しただけで、こんなにも簡単に、人を手に入れられるなんて。そりゃあ、グレンだって同じ手を使うわよね」

 カリーナは自嘲気味に笑う。
 自分は、グレンの気持ちを無視している。
 もしもルイスが彼の本当の番であった場合、グレンには一生恨まれることになるだろう。
 でも、それでもよかった。
 彼の隣に他の女がいるよりは、マシだ。
 仲睦まじい夫婦になどなれなくても、構わない。
 心がなくたっていい。
 ただ、自分のそばにいてくれればそれでいい。
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