【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
「仕方ないわよ、好きなんだから。こうでもしなきゃ、見てもらえないんだから」

 そう言いながら天井に向かって手を掲げる彼女は、笑ってはいるのだが、楽しそうでも、幸せそうでもなくて。
 そこには、悲しみの色が浮かんでいた。
 自分だって、ずっとグレンのことが好きだったのに。
 彼は、ルイスを選んだ。子爵家の女と結ばれるために、番だと主張してまで。
 それが嘘であろうと本当であろうと、カリーナは、自分がとっくに完敗していることを理解していた。
 それでも。そうだとわかっていても。彼が欲しいのだ。

 ぼうっと窓から夜景を眺めていると、誰かが宿の部屋をノックする音が聞こえた。
 西方に連れてきている使用人か、宿の者だろうか。
 名乗るなりなんなりするだろうと思い、カリーナはドアのほうへ注意を向ける。
 ドアまではやや距離があるが、カリーナの耳なら十分に音を拾うことができる。
 扉越しに聞こえてきた、言葉は。

「カリーナ。俺だ。きみと話がしたい」
「……グレン?」

 これは、グレンの声だ。
 西方にやってきてからそれなりの時が経つが、彼は一度も、カリーナの元を訪れたりはしなかった。
 正式な話し合いの場は設けられたが、こうして個人としてやってきてくれたのは、初めてだった。
 愛しの人が訪ねてきてくれた嬉しさから、自然と、カリーナの嗅覚が研ぎ澄まされる。
 少しでも相手の存在を感じ取ろうとしたのだろう。
 かすかにだが、グレンの香りも感じ取ることができた。

「グレン! やっと私と向き合う気になってくれたのね!」

 髪型や服装をささっと確認してから、カリーナは喜び勇んで扉を開ける。
 しかし、その先にいたのは――。

「残念。ハズレ」
「くらー、く……?」

 だぼだぼの服――おそらくグレンのものだろう――を身にまとった、クラークだった。
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