緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
(まずは会場の下見をして、何処にどれぐらいの花を飾るのか確認して、必要な花の数を割り出さないとね……)

 生花装飾の範囲によってはここの花畑では足りないかもしれない。その場合は別ルートで花を手配しなければならない。

 伯爵に相談しなければいけないことをメモしなければ、考えることが多すぎて忘れてしまいそうだ。

 そうして伯爵の顔を思い浮かべると、先程馬車の中でヴェルナーさんに言われた言葉が、頭の中で自動再生される。

『──俺はお店で働いている時のアンちゃんの笑顔が、一番綺麗だと思うよ』

(あわわ……! ダメダメ! 今は思い出しちゃダメーー!!)

 さっきから一生懸命考えないようにしているのに、何故か自動再生されてしまう。きっと伯爵とヴェルナーさんがよく似ているのが原因なのだと思う。

 ──あの後、ヴェルナーさんとどんな会話をしたのか覚えていない。

 ヴェルナーさんの言葉に、私は余程衝撃を受けたのだろう。
 まさかドレスアップした私より、普段の私の方が良いなんて、言って貰えるとは思わなかったから。

< 207 / 326 >

この作品をシェア

pagetop