緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 天上人のような美しい顔を、間近で見た私はあまりのことに失神しそうになる。自分でも何を言っているのかわからない。

「フロレンティーナ、アンがパニックになっている。手を離してやってくれ」

 私の様子にヤバいと思ったのか、ジルさんが助け舟を出してくれた。だけど王女様はそれがご不満のようで、むうっと頬を膨らましている。

 ……そんな表情すら綺麗だなんて、神様は不平等だと思う。

「まあ。ジギスヴァルトったら。やっとアンさんに会えたのに、邪魔をしないで頂戴」

「むぅ……。いや、しかし……っ!」

 言い合いに発展しそうな雰囲気に、ヘルムフリートさんがすかさず待ったをかける。

「まあまあ。二人とも落ち着いて。フロレンティーナもここで騒いだら街の人にバレちゃうよ」

「あ、そうね! 今はお忍びで来ていたのだったわ!」

「……うむぅ」

 私はジルさんと王女様を宥めるヘルムフリートさんを見て、随分手慣れているな、と思う。
 そう言えば三人は幼馴染だと聞いたことがあるような気がする。

「アンさん、悪いんだけど温室にお邪魔してもいいかな?」

「あ、はい! もちろんです!」

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