緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
「……そうですか。またヴェルナーさんにお会いしたら宜しくお伝えください」

「…………わかった」

 話題を変えるために、社交辞令でヴェルナーさんへの伝言をお願いしたけれど、何故か美男子さんは不満げだ。
 もしかして余計な用事を増やしてしまったのだろうか。

「では、俺はこれで」

「はい、どうも有難うございました!」

 花束を抱えて店を出ようとする美男子さんに向かってお礼を言うと、美男子さんがくるっと振り向いた。

「俺の名前はジギスヴァルトと言う。……ジルと読んでくれて構わない」

「はっ?! あ、ええと、はい! ジルさん……素敵な名前ですね!」

 突然のことにテンパった私はつい名前を褒めてしまう。自分で何を言っているのかわからないけれど、名前を呼ばれた当のジルさんは嬉しそうだ。

「ああ、また来る」

「お、お待ちしています! どうぞお気をつけて!」

 まさか名前を教えて貰えると思っていなかった私は、急にジルさんとの距離が縮まったような気がして、嬉しくなる。

(また来るって言ってくれたってことは、私の花束を気に入ってくれたんだよね……)

 こうして自分の仕事を認められると、とても誇らしい気持ちになる。

 私はまたジルさんが来てくれた時のために、綺麗な花をもっと育てようと張り切るのだった。
 




* * * * * *




❀花の名前解説❀

ローゼ→バラ

ネルケ→カーネーション

リモニウム→スターチス

ゲンゼブリュームヒェン→デイジー(多分?)

ラヴェンデル→ラベンダー

キルシュブリューテ→桜
< 33 / 326 >

この作品をシェア

pagetop