緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

05

 名前を教えて貰った日を境に、ジルさんと私は雑談を交わすほどには親交を深めていた。

 ジルさんに名前を教えて貰った後、そう言えば自分の名前を教えていなかったな、と気付いた私は、ジルさんが来てくれた三回目の日に改めて自己紹介したのだ。

「アン、今日もいつものように花束を頼む」

 自分の名前を何度も呼んでくれた人に好感を持つというように、ジルさんに名前を呼ばれる度に私の胸は高鳴ってしまう。

(こんなイケメンなのに声も良いとか反則だよね)

 私は胸の高鳴りに気付かれないように、笑顔で誤魔化して返事をする。

「はい! いつも有難うございます!」

 実際、私がジルさんにときめいたからと言って、何かが始まる訳じゃない。私はあくまでもジルさんにとってお気に入りの店の店員に過ぎないのだ。

 私は気を取り直して、ジルさんの花束に今日はどの花を使おうかと考える。

 ここは定番のローゼにリシアンサスは入れるとして、今回はまだ使ったことがないインカリリエンとアドーニスレースヒェンの組み合わせにしようと決める。

< 34 / 326 >

この作品をシェア

pagetop