緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
 私の両親は魔物が多く出没するこの国に見切りをつけて、自然豊かな国へ移住して行った。私は一緒に行こうと言う両親の申し出を断って、一人この国に残ることにした。
 その理由は、お爺ちゃんが作った温室が大好きで、ここから離れたくなかったのと、大変だけど花屋の仕事がとても楽しいからだ。

「いただきます」

 ここには自分一人だけど、食事前の挨拶は忘れない。
 ほかほかのパンをちぎり、口の中に放り込むと、天然酵母の香りが広がって、噛めば噛むほど旨味が溢れてくる。ソーセージはぷりぷりで肉汁がたっぷりだし、目玉焼きの火加減はちょうど良く、自家製ドレッシングがかかったサラダはシャキシャキと歯ごたえがあって絶品だ。

 私は温室で花を育てるついでにハーブやレタスも育てているので、サラダはいつも新鮮なものが食べられる。手作りドレッシングとの相性も抜群で我ながらとても美味しいと思う。

 もし花屋じゃなければカフェを経営していたかもしれない程に、私は料理が好きだった。

「ごちそうさまでした」

 手早く食事を終えた私は、使った食器をさっと片付けて温室へと向かう。
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