竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
 エリナは――エリスティナは、タンポポが好きだった。
 丈夫で、雨にも風にも負けない、強い花。根が強く、どこででも生きられる花。
 エリスティナはかつてタンポポのようになりたくて、けれどそれを、誰にも言ったことはなかった。

 貴族でタンポポが好きというものはいないからだ。
 生命力が強すぎて、ほかの花壇までを侵食してしまう花を、貴族はたいてい、雑草と忌み嫌った。それは人間貴族でも、竜種の貴族でも同じはずだった。

 それなのに、今、ここには一面のタンポポが咲いている。
 ここを世話した庭師が自発的にタンポポを植えるはずがない。では誰が……?

 からん、からん。
 音がする。
 徐々に近づいてくる音は、やがて黄色く小さな花に戸惑うエリナの背後で止まった。

「タンポポは、今代の竜王が、好きな花」
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