まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー


すぐにでも実力行使しようとするツクヨミノミコトの肩を、雷地がたたく。

意外にも、むっとすることなく引き下がった。



「黙って聞いておれば、そこまで許した覚えはないぞ!」



「引退するご老体に人事権はないでしょ」



「何処の馬の骨とも知れぬやつに、名家の当主なぞさせられるか!」



「いやいや、さっき火宮当主本人がスカウトしてたじゃん?」



「当主を譲るとは言っておらん!」



「陽橘は家を潰すよ?」



当主達の言い分をことごとく撃破する雷地。

ツクヨミノミコトだと、反抗する者は埋めているところだ。

チャラ男は屁理屈が得意らしい。



「陽橘の下で、こき使ってやる。優秀な奴を引き入れるのは当たり前の事だ」



「すぐに下剋上がおきる。断言してもいい。だから穏便に、同意をもって明け渡してくれたら嬉しいなぁ。俺達も手を貸すし、ね?」



「貴様は、顔も名前も知らん奴を引き入れるのか!?」



「顔や名前がわからなくても、剣を交わらせたから、どんな人か俺にはわかるよ。でも、勝負にならない皆さんにとっては、一理あるねぇ……」



勝負にならない皆さん、に棘があった。

むっとする彼らをおいて、雷地は振り返り、問う。



「ねぇ、仮面を取ることはできる?」



「ああ」



先輩は迷う事なく仮面に手をかけた。



「……えっ?」



驚きの声を発したのは響。

仮面の下は、ただれた火傷の痕。

引きつれた皮膚が片目を半分以上覆い、もう片方は三白眼であることがわかる。

いかつく恐ろしいようなそれは、爽やかイケメン俺様大魔王な先輩とは、遠いところにある顔だ。

霊力を身体の外に鎧のようにまとい、実体を持たせる。

やられたふりで偽物の怪我を作り続けるうちに磨かれた技術。

完成までの速度とリアリティには特殊メイクもびっくりだ。



「………もういいか? 古傷を晒したくない」



呆気に取られている周囲の人の許可を待たず、仮面をつけ直す。

仮面の下が火宮桜陰だと気付いていた響が、説明を求めて私の方を見てきたが、微笑みを返すだけ。

先輩が顔を隠すことに決めたなら、それに従うまで。



「これで、顔を知らないってことはなくなった」



いち早く正気に戻った雷地が、再び司会進行。



「文句ないよね?」



有無を言わさぬ凄みがあった。

しかし古狸どもは伊達に当主をしてない。

簡単には頷かない。



「遠縁を本家に迎えるのとは違う。ぽっと出のまったくの他人を養子とし、あまつさえ当主に据えるなど、火宮の名折れ」



「わかった。なら、こうしよう」



雷地は妙案を思いついたと口の端を釣り上げ、手を叩いた。



「破門するっていう、無能なご子息とこの方を入れ替えましょう」



俺って天才、と自画自賛する。



「迎え入れるのがダメなんだもんね」



「取り替えなら問題解決だ」



「……いいと思う………」



他の次期当主達も乗り気だ。

現当主達も、いいかも、なんて口にしている。

冷静に考えれば問題だらけなんだろうけど、勢いにのまれているようだ。

まあ、スカウトされた仮面の中の人と、破門される無能なご子息は同一人物なので、入れ替わるもクソもないのだが。

今言うことではない。



「………わかった。あれに次の妖魔退治の試験を受けさせよう。無能なアレは死体となって戻るだろうから、処分も簡単。そして、空いた席にこやつを据え、無能な息子の名をやる。さすればこやつが当主になってもかまうまい」



「よっ! 火宮当主! よくご決断なされた! ささ、気が変わらないうちに念書をお願いしますね」



雷地は煽てて、気をよくした火宮当主から手早くサインをもらっていた。

鮮やかな手際。

これが初めてとは思えない。

犠牲になった人達の苦労が偲ばれる。

敵に回したくないお人だ。

妖魔退治の試験というのが気になるが、悪い条件ではなさそうだ。



「それはいい。……連帯責任だ。雷地、お前も次の試験を受けなさい」



「柚珠、お前もだ」



「常磐、わかるな」



「当然!」



あわよくば処分できると考える当主達の命令に、揃って返事をする次期当主の皆は闘志を燃やしていた。




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