転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「けけけ、結構です! 乱せば、よいのでしょう? 自分でやりますわ!」



 逃げようとした私だったが、逆にきつく抱き込まれてしまった。アルベール様が、耳元で囁く。



「ご自分でなさったのでは、リアリティが出ないと思いますよ。男の目の付け所は、また違いますからね」



 知らないでしょう? と言われた気がして、またしても顔が熱くなる。本来ならば、身持ちが堅いというのは、褒められるべきこと。でも、自分が男性に人気が無いと承知しているだけに、何だかひがんでしまう。



「ということで、失礼しますよ」



 アルベール様は、私の胸元を緩めにかかった。一見粗野な振る舞いだが、素肌に触れないよう気遣っているのがわかって、私はおやと思った。同時に、その手つきが慣れていることにも気付く。



(そりゃそうよね。恋愛どころではなかったと仰っていたけれど、こんな素敵な方だもの。経験が無い方がおかしいわ……)



「これくらいにしておきましょう」



 ようやくアルベール様の手が離れると、私はほっと胸を撫で下ろした。だが彼は、私の体を抱いたまま、放そうとしない。



「あの……、アルベール様?」



 さすがに抗議しようと顔を上げれば、彼は微笑を浮かべていた。目が合い、ドキリとする。



「怯えすぎ。そんなことでは、恋人同士に見えませんよ?」

「そんなこと仰られても……」

「だから、しばらくこうしていましょう。あなたが慣れるまで、ね」



 反論の言葉が見つからず、私は黙り込んだ。確かに、アルベール様と私が恋人同士だなんて、ただでさえ唐突な話なのに。よそよそしい態度を取っていたら、ますます疑われるだろう。殺人犯として捕まらないためには、ここは辛抱しないといけないのかもしれない……。



 とはいえ、男の人と触れ合うなんて、初めての経験だ。心臓は、今にも破れんばかりの勢いで、激しく脈打っている。終始余裕のアルベール様とは、対照的だ。



「俺たち二人が見つかるのと、死体が見つかるのと、どちらが早いですかね。賭けましょうか?」



 私を抱きしめたまま、アルベール様はそんな軽口さえ叩いている。
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