転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 私たちは、誰かに見とがめられることもなく、無事私の部屋へたどり着いた。



「どうぞ、こちらですわ」



 先に、アルベール様をお通しする。相変わらず緊張しっぱなしだけれど、室内は綺麗に片付いていて、それだけは安心できた。ところが彼は、ちょっと眉をひそめた。



「整然としすぎですね。これでは、少々不自然かな」

「不自然?」



 私は、オウム返しに言った。意味がわからずぽかんとしていると、アルベール様は私のベッドを指さした。



「恋人と密会していた設定なんですから。乱れていた方が、説得力があるというものでしょう」

「……あ」



 私は、赤くなった。いかに自分がそういうことに疎いか、実感する。



(逆にアルベール様って、慣れてらっしゃる……?)



 失礼、と断りながら寝具をめくっているアルベール様の後ろ姿を、私はじっと見つめた。単に公爵家の長男というだけでなく、彼は学問にも武芸にも秀で、騎士団の中でも注目される存在である。おまけに顔立ちも端正でいらっしゃるから、言い寄る女性は後を絶たない。恋愛経験が豊富でも、全く不思議は無かった。



「あの、アルベール様」



 私は、思い切って尋ねてみた。



「アルベール様は、本当によろしいのですか。私の恋人だ、などと宣言なさって……。その、意中の女性がいらっしゃったりはしないのですか」

「ああ、そちらを心配してくださっているのですか」



 アルベール様は、身軽にベッドに腰かけられた。



「ご心配ご無用です。そのような女性は、おりませんので」

「そうでしたか」



 ほっとしつつも、私は意外な思いだった。これだけ女性に人気なのに、と思ったのだ。でも言われてみれば、その割に浮いた噂を聞いたことは無い気がする……。



「正直、恋愛に興味は無くてね」



 私が不思議に思っているのを察したように、彼は補足した。



「これまで、それどころではなかったから……」



 そこでアルベール様は、ふと口をつぐまれた。それはそうですわよね、と私は納得した。何といっても、彼はミレー家を背負って立たれる身だ。責任の大きさは、きっと計り知れない。



「モニク嬢、こちらへ」



 ややあって、アルベール様が手招きされる。隣に座れということらしい。私はコチコチになりながら、少し距離を置いてベッドに腰を下ろした。すると彼は、不意に肩を抱き寄せてきた。同時にドレスの胸元に手をかけられて、私は目を剥いた。



「何なさるんです!」

「服装だって、乱れていないと不自然でしょう?」



 彼の漆黒の瞳は、楽しんでいるような光をたたえていた。
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