転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

3

「私、帰るのはもう少し後にしますわ。エミールからの報告が、気になります」

「じゃあ、一緒に読みましょう」



 私たちは、再びソファに並んで腰かけると、手紙を読み始めた。親愛なるお兄様、お義姉様、から始まっている。こんな状況だというのに、その呼びかけがくすぐったかった。



『まずは、衝撃の事実をお伝えせねばなりません……。バール男爵の友人、ピエールは、すでに亡くなっていました。それも、九年前です』



 私たちは、思わず顔を見合わせた。男爵の屋敷に姿を現さなくなったのは九年前、と聞いていたが。まさか、その直後に亡くなっていたとは。



『でも、報告はそれだけではありません! せっかく行ったのですから、ピエールの未亡人から話を聞いてきました。父様も、一緒に来てくださいました』



 お忙しい中、ミレー公爵が協力してくださったことに、私は深く感謝した。



『ピエールと奥様は、子供には恵まれなかったけれど、たいそう仲の良い夫婦だったそうです。奥様は、バール男爵にひどく憤っていました。夫は、彼に殺されたのだ、と』

 

 九年前と聞いた時点で、もしやという気がしなくも無かったが。やはりか、と私は陰鬱な気分になった。



『同じ調香師といっても、才能があったのはピエールの方でした。ピエールは、たいそう植物に詳しく、バール男爵は彼を利用して儲けていたようです。それでもピエールは、文句も言わずに彼との付き合いを続けていたそうです。男爵が、王都へ進出した後も……。ところが九年前のある時、ピエールは王都へ出かけ、慌てた様子で帰って来ました。そして、奥様にこう告げたそうです。大変だ、オーギュストは植物を悪用して、高貴なお方を殺めた、と』



 ドキリとした。



『その日からピエールは、猛然と作業を始めたそうです。自分が研究してきた植物と調香に関する記録、そして、バール男爵と一緒にやってきた商売の記録。これらを書き写して、同じ記録をもう一つ作成し、奥様に託したのだそうです。そして、こう言ったとか。自分にもしものことがあったら、これでオーギュストを告発してくれ、と』



 バール男爵は、いかがわしい商売に手を染めていたのだろうか、と私は想像した。



『それから数日後、奥様が外出している間に、ピエールは家の中で殺されました。室内が荒らされていたことから、物盗りの犯行とみなされたそうですが、奥様はピンときたそうです。というのも、ピエールが必死に守ろうとしていた、記録が無くなっていたから……』



 男爵が刺客を差し向けたに違いない、と私は確信した。



『奥様は、夫から託された記録の写しを肌身離さず持っていたため、そちらは無事でした。しかし、現実に夫が殺されて、彼女は怖くなり、男爵を告発することはできなかったそうです。自分も、命を狙われるのではないかと……。でも今回、男爵は亡くなったと僕らがお伝えしたことで、ようやく打ち明ける勇気を出せたのだそうです。僕と父様は、彼女が所持していた記録を預かりました。王都へ持ち帰ります!』
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