転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

5

 サリアン邸へ戻ると、待ち構えていたようにモーリスが私を出迎えた。



「お帰りなさいませ、モニクお嬢様。お早く、応接間へいらしてください。マルク王太子殿下がお待ちでございます」

「まあ、何ですってっ」



 急ぎ足で向かうと、果たして応接間には、マルク殿下がいらっしゃった。ドニ殿下もご一緒だ。そして、ローズも。



「お待たせしまして、申し訳ございません。外出しておりまして」



 私は、丁重にご挨拶申し上げた。



「お加減が悪いとお聞きしましたが、もうおよろしいのでございますか?」

「ええ、すっかりお元気でいらっしゃるそうよ」



 そう答えたのは、殿下ではなくローズだ。



「私が丹精込めて育てた、お見舞いのフリージア、とても気に入られたのですって」



 私は、ぎょっとした。



(あなた、フリージアをお見舞いとしてお贈りしたの……?)



 ちなみに、丹精込めて育てた人物は、私なのだけれど。それは、この際、いい。フリージアは、確かに見た目は綺麗だが、たいそう匂いがきついのだ。見舞いの花としては避けるべき、代表格だというのに。せめて一言、私に相談してくれていれば……。



「まあっ、嫌ですわ、お義姉様。そんな怖いお顔をなさって……。殿下、私、差し出がましかったかしら?」



 ローズが、甘えるようにマルク殿下に尋ねる。いえ、と殿下は短く答えられた。渋々、といった様子だ。



「ああ、よかったですわあ」



 ローズは、大げさに胸を撫で下ろした。そりゃ、本人に向かって迷惑とは言えないでしょうよ、と私は内心呟いた。すると、ドニ殿下が口を挟まれた。



「ローズ嬢も、植物がお好きなのですな。是非、教えていただきたいものだ。フリージアの花言葉は、何ですか?」

「――ええと……」



 ローズは、ぐっとつまった。



「おや、ご存じでない? モニク嬢はいかがかな?」



 ドニ殿下は、私をご覧になった。マルク殿下は、私とローズを見比べて、合点したというお顔をなさっている。私は、少し考えてから、こうお答えした。



「色によりますが、黄色のフリージアの花言葉は、『無邪気』でございますわね。マルク殿下、その言葉に免じて、ローズのそそっかしい振る舞いをお許しいただけませんでしょうか」
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