転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

12

(嘘、キスされてる……!?)



 キスなんて、現世はもちろん、前世でもしたことが無かった。これは貴重な経験ができたのではという思いもかすめるが、浸っている場合ではない。いつ、アンバーたちが入って来るかわからないのに。逢い引き設定とはいえ、これはさすがにやり過ぎだろう……。



 抗議の意を込めて、アルベール様の胸を押し戻そうとするが、彼に止めてくれる気配は無い。それどころか、口づけは次第に深くなっていく。必死で抵抗を試みるが、私を押さえつける力は強く、逃れられそうになかった。さすが、騎士として日頃から鍛錬してらっしゃるだけのことはある……。



 その時だった。バタン、と扉が開く音がした。



「モニク様……って、ええっ!?」



 不機嫌そうなアンバーの呼びかけは、驚きの絶叫に変わった。アルベール様は、そこでようやく私の唇を解放してくださった。悠然と体を起こし、ベッドから立ち上がる。私も、慌てて起き上がった。扉の所では、アンバー他二人の侍女たちが、あんぐりと口を開けて突っ立っていた。



「ノックもせずに主人の部屋に入るとは、礼儀知らずな……。あなたは、こんな侍女を雇っているのか?」



 アルベール様は、じろりとアンバーをにらみつけた後、私の方をチラと見た。アンバーが、うろたえたように謝罪する。



「申し訳ありません……。この部屋は無人かと思っておりましたので」

「嘘をつくな」



 アルベール様の、鋭い声が飛ぶ。その迫力たるやすさまじく、アンバーに向けられたものだというのに、私まで震え上がりそうになった。



「モニク嬢を捜して、ここを訪れたのはわかっている。君が、彼女を呼ぶ声が聞こえたからな……。そして、悪し様に罵る声も」



 アルベール様が、つかつかとアンバーに近付く。彼女が、身をすくませたのがわかった。



「冴えない、手入れし甲斐が無いだと? 女主人を磨いて魅力を引き出すのが、侍女の仕事ではないのか? 君は、自分の怠慢を棚に上げて、雇い主を貶めるのか!」

「それは……」

「最低な使用人の特徴は何か、知っているか」



 言い訳しようとするアンバーを、アルベール様は激しい口調でさえぎった。



「主人のいない所で、彼女を悪く言う人間だ。雇っているのが俺だったら、即座に解雇するだろう」



 言いながらアルベール様は、私の方を振り返った。彼の言いたいことは、すぐにわかった。



(前世と同じ間違いはしないわ。人の顔色ばかり見るのではなく、毅然と生きるのよ……)



 私は、アンバーの目を見て告げた。



「長い間、ありがとう。でも、信用できない使用人を、この家に置いておくわけにはいかないわ。アンバー、あなたには、辞めてもらいます」
< 12 / 228 >

この作品をシェア

pagetop