転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

3

「……そういうことでしたら」



 国王陛下のお名前を出されたのでは仕方ないとばかりに、侯爵夫人は一礼して退室された。二人きりになると、マルク殿下は真っ直ぐに私を見つめられた。



「先日は、あなたのおかげで本当に助かりました。改めて、お礼を申し上げます。ありがとう」

「とんでもありません。当然のことをしたまででございます」



 私は、丁重にお返事申し上げた。そのお礼を仰りにいらっしゃったのかと思ったが、殿下は不意に深刻な表情になられた。



「あなたには、お詫びも申し上げねばなりません。父上が、このように強引に婚約を決められたのは、その件がきっかけです。しかも犯人は、どうやらずっと以前から、私の毒殺を企んでいたようなのです」



 私は、ドキリとした。



「鷹狩りの後、私は何度も医師の診察を受けさせられました。さらには、王宮の料理人全員が、一斉に取り調べられているとのこと。父上は私を心配させまいとしてか、何も仰らないので、私はベルナールに命じて探らせたのです。そうしたところ、どうやら私は恒常的に毒を盛られており、父上はそのことを調べさせているようだとわかりました」



 ベルナール様というのは、ガストンの郷里へ行って調査をなさった、マルク殿下の忠臣である。モンタギュー侯爵のご報告を受けて、ジョゼフ五世陛下は迅速に動かれたのだな、と私は合点した。



「……犯人の目星は付きましたの?」



 いえ、と殿下はかぶりを振られた。



「ベルナールによると、まだわかっていないようだと」



 本当に判明していないのか、判明していても陛下が伏せておられるのか。一体どちらだろう、と私は思った。



「父上が、焦って私とあなたの婚約を決められたのには、そういう背景があるのです。長年摂取させられた毒物のせいで、私の体は弱りつつある。子が成せる間に、早く世継ぎを作って欲しいのでしょう。そして、植物に詳しく毒草を見分ける力のあるあなたなら、私を守るのにふさわしい、と。恐らくは、そういったお考えでしょう」



 陛下のお気持ちも、わからなくはないけれど。だからといって、はいそうですかと受け入れるわけにもいかない。困り果てていると、マルク殿下は思いがけないことを仰った。



「とはいえ、あなたにはアルベール殿がいらっしゃる。さぞご迷惑な話でしょう。そして私もまた、あなたを妻に迎えるつもりは無かったのです。……というより、どなたとも結婚するつもりはありませんでした。実は私は、かねてからこう考えていたのです。王位は、ドニに譲ろうと」
< 157 / 228 >

この作品をシェア

pagetop