転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

12

 私は勇気を振り絞り、ドニ殿下に少しだけ近付いた。



「殿下。本当のことを、私にだけお話しくださいませ。私、真実を知ったからといって、あなたを告発したりはしませんわ。たとえあなたが殺人者でも、あなたを愛する気持ちに変わりはありませんもの。ただ、全てを明らかにして、気持ちをスッキリさせたいだけです」



 殿下の視線が泳ぐ。口封じに私を殺してしまいたい、というのが本音だろうが。マルク殿下が、私の今夜の来訪をご存じでいる以上、それもできないから悩んでおられるのだろう。私は、さらに言い募った。 



「本当ですわ。誰にも申しません。殺人現場を目撃しながら、しかも自分が濡れ衣を着せられながらも、ずっと口をつぐんでいたのが、何よりの証拠でございましょう?」

「……では、これからもずっと、黙っていてくださると?」



 警戒した様子で、殿下が尋ねられる。ええ、と私は頷いた。



「お話しくだされば、ロケットもお返ししますわ」



 殿下が、しばらく沈黙される。やがて彼は、ぽつりと仰った。 



「僕は、当然の復讐をしたまでです」 



 殿下の瑠璃色の瞳には、暗い炎が宿っていた。



「僕の母は、王妃殿下に殺されたのです」 

「殺された!?」



 私は、ぎょっとした。



「シュザンヌ様は、病死では……!?」

「表向きは」



 ドニ殿下は、短く答えられた。



「こうなったら、全てお話ししましょう……。王妃殿下は、国王陛下に寵愛を受けていた母を、ひどく憎んでおられたのです。子供心にも、妃殿下に辛く当たられて泣いていた母の姿は、よく覚えています……。そして、ついに憎しみが頂点に達した妃殿下は、母の殺害を目論みました」



 殿下は、淡々と続けられた。



「五歳のあの日のことは、一生忘れません……。あの日僕は、離宮の中庭で遊んでいました。すると、見覚えのある男が母の部屋から出て行くのが見えたのです。王妃殿下の、側近中の側近でした。嫌な予感がして、部屋へ向かうと……、母はベッドの上で、昏睡状態に陥っていました。すぐに医師を呼びましたが、手遅れだったのです」
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