転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「それだけではありませんわ。ドニ殿下の敗因は、女性を侮りすぎたことです。私が彼に夢中で、何でも言うことを聞くと、思い込んだのでしょう」

「確かに、迫真の演技でしたね。窓の下で、ずっと聞いていました」



 アルベール様は、じろりと私をご覧になった。



「本当に、演技ですよね?」

「当たり前じゃございませんの!」



 思わず語気を強めれば、彼は「失礼」と呟いた。



「いえ、以前言っておられたから。かつて彼に憧れていた、と」

「よく覚えてらっしゃいますわねえ」



 私は、呆れた。



「てっきり、忘れておられるものかと。その時だって、クールなご反応でしたし」

「そりゃ、嫉妬をむき出しにするなんて、みっともないでしょ。しかもあの頃は、まだ偽装恋愛関係でしたし」



 あれ、と私は思った。



「ええと、では、もしかして……。妬いておられましたの?」

「当然」



 アルベール様は、短く答えられた。



「もう、どうにかなりそうでしたよ……。無理やり、抑え込みましたが」



 そこまで喋ってから、照れくさくなったのか、アルベール様は「帰りましょう」と言い出された。



「王宮まで、お送りします」

「すぐ近くですから、一人でも平気ですわよ? アルベール様も、早く休まれた方がいいのでは? お疲れでしょう」



 遠慮したのだが、彼は送ると言い張った。



「近いといっても、危険ですし。……それに、俺があなたと一緒にいたいんです。ずっと会えなかったのだから」

 

 私は、こくりと頷いた。私だって、気持ちは同じだ。王宮入りしてから、アルベール様に会いたくて気が狂いそうだった……。



 共に離宮を出ると、私たちは自然と手を握り合っていた。短い道のりを寄り添って歩いていると、彼はこんなことを言い出した。



「王宮を去る準備が整われたら、そのままミレー家へお越しください。母もエミールも、あなたに会いたがっています」



 確かにお二人とも、しばらくお会いできていない。懐かしく思う一方で、私はためらった。



「でも、サリアン邸に一度戻りたいのですけれど。急に王宮行きが決まったもので、残っている荷物もありますし」



 だがアルベール様は、なぜか頑なに拒絶された。



「それは止した方がいいと思います。荷物なら、後でどうとでもなりますから」

「はあ……」



 今ひとつ解せないが、取りあえず私は頷いた。
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