転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「ええええ!?」



 いつの間に、待機していらしたのか。アルベール様に見せるには、まだ心の準備ができていないというのに。だが侍女たちは、コレットに先導されて、さっさと退室してしまった。入れ替わりに、アルベール様が入って来られる。



 アルベール様は、私を見て一瞬息を呑んだ。



「……エミールの忠告を、聞いておくべきだったな。俺は、文学的表現を学ぶべきです」



 彼は、はにかんだような微笑を浮かべた。



「いかにあなたが素敵か、上手く語れればいいのに。綺麗だ、という言葉しか出て来ないんです」

「そのお言葉だけで十分ですわ」



 私も、何だかうまく喋れない。今日のアルベール様は、王立騎士団の正装をなさっているのだ。体格の良い彼に、騎士の衣装はとてもよく似合う。黒と深紅を基調にしたマントが、彼の凜々しい顔立ちを引き立てていた。



「そのドレス、本当によく似合っていますよ。やっぱりあなたは、スタイルが良いのだな」



 アルベール様が、私のドレスをしみじみとご覧になる。『モニクには清楚なデザインがよいわ』と、ミレー夫人はエンパイアラインを推したのだ。そのおかげで、元々高身長の私はさらに背が高く見えるのだけれど、アルベール様がかなりの長身でいらっしゃるから、釣り合い的にも問題は無い。



「ありがとうございます……。それから、この指輪も。今日の装いにぴったりですわ」



 気恥ずかしくなり、私は話題を変えた。アルベール様から贈られた指輪のはまった手を、彼の前に差し出す。彼はその手を取ると、私の髪にかざされた。



「あなたの髪の色に合わせて、選んだのです。ほら、このルビーの赤。そっくりでしょう?」



 そして彼は、しみじみと呟いた。



「よかった。無事、この日を迎えられて。あなたに、この指輪を着けていただくことができて……」

「本当ですわ。準備も、スムースに進みましたし……。ミレーのお義母様や、皆のおかげですわね」



 心から、私はそう思った。



「あなたの傷も、完治しましたし……。もう、大丈夫なのですわね?」

「完全復活ですよ」



 アルベール様が、肩を動かしてみせる。安堵する一方で、私は疑惑を抱いた。



「それにしても。結婚式に合わせて完治するなんて、ずいぶんなタイミングの良さですわね」



 私は、眉をひそめた。直前まで、私は彼に食事を食べさせる作業を続けさせられていたのである。



「まさかとは、思いますけれど。実はもう治っていた、などということは……」
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