転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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「違いますよ。治るまで一ヶ月と、お医者様も仰っていたでしょう?」



 確かに、あれからちょうど一月ではあるけれど。それでも疑いの眼差しを向けていると、アルベール様は「本当ですって」と口を尖らせた。



「治っていないからこそ、同じ屋敷に暮らしながら一ヶ月もの間、俺は指をくわえてあなたを見ていたわけです。でなければ、とっくの昔に手を出していましたよ」



 言われてみれば、あれこれ際どい真似はされたけれど、節度は守ってくださっていたように思う。とはいえ……。



「挙式まできちんと待ってくださるのかと、アルベール様を評価していましたのに」

「俺がそんな真面目な人間に見えますか?」



 クスクス笑いながら、彼は私を抱きしめた。



「片腕でも、あなたを愛そうと思えばできましたよ。でも、不自由な体で行為に及んで、あなたをうっかり傷つけでもしたら、と用心したんです。あなたは、初めてだというのに……」



(そんな風に、思ってくださっていたの?)



 思わずアルベール様の瞳を見つめれば、彼は何かに耐えているような表情をした。



「そんな顔をなさらないでください。夜まで、待てなくなる」



 言いながら彼は、私の首筋に軽く口づけた。



「でももう、体調は万全ですからね。たっぷり、愛してあげられます……。というわけで今夜は、覚悟なさってくださいよ?」

「えっと、アルベール様……?」



 私は何だか恐ろしくなった。彼の口調には、妙な凄みがあったのだ。



「何せ、無駄に一ヶ月、試練の時を過ごしたわけですからねえ。その分を取り返さないと」



 艶めかしく囁かれて、背筋がぞくりとする。その一方で私は、甘い期待を覚えるのも、否定できなかったのだった。
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