転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

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 予想外のご質問に、私は一瞬逡巡した。すると、私がお答えするより早く、アルベール様の澄んだお声が響いた。



「これは、無粋なご質問をなさる。男女が惹かれ合うのに、理屈はありますまい……。それともドニ殿下、こちらの素敵な令嬢を前にして、恋慕の情を抱かずにおれると? そのご質問自体、彼女の魅力を否定するようなものですよ?」

「――いえ、そういうわけでは……」



 殿下は、うろたえたように口をつぐまれた。私は、ハラハラしながら見守った。



(アルベール様、王子殿下に向かって、何という大胆な口の利き方……)



「とはいえ」



 アルベール様は、にっこりされた。



「ご質問にお答えしないというのも、無礼な話です。モニク嬢に惹かれた理由は、星の数ほどございますが、一例を挙げさせていただきましょう。『共感』です」

「それはまた、どういうことです?」



 ドニ殿下は、不思議そうな顔をされた。モンタギュー侯爵も、同様である。



「ご存じの通り、モニク嬢のお母上は、実のお母上ではありません。そしてそれは、私も同じ……。ちなみに巷では、私は妾腹の子と噂されているようですが、それは誤りです。私は、父母のいずれとも血が繋がっておりません。私は、みなしごでした。そんな私を引き取って育ててくださったのが、ミレー公爵夫妻なのです」



 私は、唖然としていた。アルベール様が、そんな生い立ちだったとは。そしてそれを、わざわざこの場で公言されるなんて。



(私などの、アリバイのために……)



「父母は、私によくしてくれました。ですが私は、どこかしら気を遣ってきました。同じ境遇で育ったモニク嬢は、私の気持ちをよく理解してくれたのです……」



 さすがのモンタギュー侯爵も、決まりの悪そうな顔をなさっている。ドニ殿下に至っては、焦ったご様子だった。



「アルベール殿、言いづらいことをよく仰ってくださった。もう、その辺で……」

「私にとっては、恥ずべきことでも何でもございませんので。それに、王子殿下のご質問にお答えしないというのは、失礼でしょう」



 アルベール様の横顔には、不敵な笑みすら浮かんでいた。
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