転生したら伯爵令嬢でした(ただし婚約者殺しの嫌疑付き)。容疑を晴らすため、イケメン年下騎士と偽装恋愛を始めます!

10

 私は、愕然とした。



(どうして……?)



 物盗りの仕業に偽装工作する際に落としたのか、とも一瞬思った。でも、すぐに思い直した。そんなはずは無い。パーティーの翌朝、ブローチは確かに鏡台の上にあった。パーティーが終わるまで、ブローチを着けていたのは確かなのだ……。



 別の騎士が、いかめしい顔つきで応接間へ入って来る。彼は、ハンケチに包んだ何かを恭しく捧げ持っていた。モンタギュー侯爵は、それを受け取ると、私の前に突き出した。



「あなたの物ですか」

「――はい」



 紛れも無く、お母様が私にくださった、エメラルドのブローチだった。私は、必死に侯爵に訴えた。



「でも、パーティーが終わった後、確かに外して鏡台の上へ置きましたわ! 翌朝には、チェストの引き出しにしまいました!」



 だがモンタギュー侯爵は、眉間に皺を寄せたままだった。



「だったらなぜ、あの部屋に……」

「モニクお嬢様は、無実でございます!」



 そこへ、悲壮な声がした。真っ青な顔で飛びこんで来たのは、モーリスだった。



「事件の翌朝、私とお嬢様は、このブローチの由来について語り合いました。亡きお母様が、愛が成就するようにという思いを込めて贈られたのだと……。その際お嬢様は、チェストの引き出しにしまっておられました。誓って、証言いたします!」

「モーリス……」



 私は思わず駆け寄ると、彼の手を取った。モンタギュー侯爵が、思案顔になる。そんな彼に向かって、アルベール様は補足するように仰った。



「私は、やはりアンバーという侍女が疑わしいと思いますがね。ちなみに、私と会っている時も、彼女はそれを着けておられましたよ。早く肌に触れたいというのに、ブローチが邪魔になって、なかなか衣装を脱がせられませんでしたから。焦れた覚えがあります」



 即興の、作り話である。バレやしないか、と私はヒヤヒヤした。幸いにも男性陣は、それを、赤裸々な話を暴露されたことによる羞恥と捉えたようだった。モンタギュー侯爵が、咳払いをなさる。



「えー、もう結構、アルベール殿。モニク嬢、今日はもう切り上げますが、このブローチはお預かりしますよ。重要な、証拠物件ですから」



 そんな、と私は唇を噛んだ。これは、手袋やショールとは違うというのに……。
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